健太は隅のカウンターに座った。
「久しぶりだね。あれ、なんか顔がやつれてるねぇ」
「やっぱし、そう見える?」
「うん。だめだよ、一番幸せな人が」
「そんな気分だったら、ひとりでここには来ないよ」
「なんかあったの?」
「それに関してはあまり喋りたくないんだ。詮索はいいからさ、ローゼスを一本入れてよ」
それからマスターは、健太にあまり喋りかけてこなくなった。健太の心を察したのかもしれない。
健太はローゼスをロックのダブルで飲んだ。いつもはこんな飲み方はしない。
〝ヒロシと圭子が・・・結婚。淳之介と純子も結婚だし、残されたのは俺ひとりか・・・なんか、ものすごくひとりだなぁって感じがする〟
健太は早いピッチでローゼスをあおった。
「健ちゃん。ちょっとペースが早いよ。強いのはわかってるけど、それじゃちょっと・・・」
マスターが心配した様子で言った。
「マスター。今夜はほっといてくれ。今は酔っぱらいたい気分なんだ」
健太の言葉に、マスターは少し驚いた様子だった。
〝こりゃ、荒れてるな。いつもの健ちゃんじゃないな〟
それからというもの、健太は自己嫌悪と孤独感に襲われながら、一気にボトル半分をあけた。
ライブが始まっても、健太は虚ろな目でステージを見ていた。酔いが体中にまわっていた。
〝沙也夏は今頃どうしてるんだろう。俺のようには落ち込んでないだろうな。彼女は芯が強いし、生まれ変わるとも言ってたっけ。男よりも女のほうが現実的だし。彼女は好きでもない男とひとつ屋根の下で暮らして、やり通すだろう。それにひきかえ、この俺は。酒でごまかすしかないなんて情けねぇ〟
情けないと思いながらも、バーボンを飲んだ。
健太は歌うことが自分を救うことを忘れていた。それほど、健太は打ちのめされていた。沙也夏と別れたことに加えて、ヒロシと圭子が結婚するということがショックを与えていた。ふたりが結婚することに、どうこう言うつもりはなかった。ただ、自分だけがひとりなんだという疎外感が、健太にどうしようもない淋しさを感じさせるのだった。