「〝レイラ〟を歌ったけど、〝ワンダフル・トゥナイト〟にはならなかった。それで今は、〝オールド・ラブ〟の気分なのさ」
健太はクラプトンの曲のタイトルを借りて、今の自分の気持を言った。自分でも考えてなかった言葉がすらすらでてきたことに、驚いていた。
「そうだったの。沙也夏さんとうまくいかなかったのね」
「それだけでよくわかるな」
「〝レイラ〟は求愛の歌で、〝ワンダフル・トゥナイト〟は恋人と結ばれた幸せを歌ってる歌だわ。そして、〝オールド・ラブ〟は終わった愛を忘れられず、苦しんでる歌。私にはそれだけで充分よ」
「どうしてうまくいかないのか・・・どうやら、俺には女運がないらしい」
「それは違うと思う。健太は女心がわかってないのよ」
「きついこと言うんだな。でも、そうかもしれん」
圭子は健太の言葉を聞くと、これだけは言うまいとしたことを話そうと思った。
「私が、どんな気持で沙也夏さんとのことを見てたと思う?どんな気持で週に何回もアパートに料理を作りに来てたと思う?どんな気持でヒロシのプロポーズを聞いてたと・・・」
圭子は言葉を最後まで言えなかった。
健太は圭子の顔がまともに見れなかった。思いもよらなかった言葉が耳にはいってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は健太のバックでピアノ弾いてる時が、一番楽しかった。私はバンドの一員でもあり、健太のファンでもあったの。それが、いつしか恋心に変わっていった」
健太はただ、じっと目を閉じて聞いていた。
〝大バカ野郎だ。俺は!こんなにそばに想ってくれてる女がいたのに。でも、俺には沙也夏しか見えなかった・・・〟
「私は・・・あなたが、あなたが・・・」
圭子の言葉は最後まで続かなかった。健太が遮ったからだ。
「言うな!言わないでくれ。それ以上言われると、よけいつらくなっちまう」
健太はバーボンを一気にあおり、いてもたってもいられずに、またトイレに駆け込んだ。