数日前にいくつかのニュースで「多発性硬化症の多発的に生じている炎症と腸内細菌のバクテロイデスの数の減少に関連性があるのでは?」という内容のものがありました。


この内容は個人的に大阪のM先生の考え方を中心に以前から少し考えていたことと関連するので少しまとめてみました。


腸内フローラがこのところ話題になり、腸内細菌が作る物質のいくつかが体のいろいろな仕組みにいろいろと作用していることがわかってきました。
乳酸菌のある種のものが免疫を調整したり、バクテロイデスが作る短鎖脂肪酸が膵臓からのインシュリンの分泌を促したり、パントエア菌が作るLPSが貪食細胞のマクロファージをそれまで知られていた方法とは異なる方法で元気になったり、原始的な嫌気性土中細菌が細胞内にたまったごみを掃除する作用に関係していたり(オートファジーの作用)していることがわかりつつあります。

これらは腸管の粘膜層に棲んでいる細菌が起こしている働きですが、漢方の世界ではこの部分を「脾の気陰」という形でとらえて考えるようになってきました。特に腸内細菌は、腸の粘膜、粘液層、細菌群と合わさって「脾陰」と考えると良いのではと思います。

「脾陰」という言葉は中医学の中でも注目されるようになったのは10年ほど前に伊藤良先生をはじめとした先生方が積極的に唱えられた考え方です。伊藤先生らはこの「脾陰」と「シェーグレン症候群」の経験例を書籍にされておられ、自己免疫疾患と脾陰との関係を指摘されています。

脾陰は腸の壁や粘膜層、そこに形成される粘液層の不完全な状態のことをどうやらいうようだと考えられ、ここが不完全ですと腸内フローラの形成がうまくいきません。
どうもこのあたりは漢方書の原点の一つ「本草綱目」にも「人魄」という形で紹介されている部分が当てはまるのではないかと親しい大阪のM先生は考えておられます。

この脾陰の形成は報道されたようなバクテロイデスも含むことになり、多発性硬化症のような疾患や、考えを広げていけば自己免疫不全の疾患のほとんどの発生要因になっているのではないかと思います。
あるいは慢性疲労症候群もここが関係している可能性があるようにも感じます。

多発性硬化症の場合、今まで幾人かのご相談を受けたことはありますが、もちろん手探りな状態でよい結果が出てるとは言いません。
ただ、相談を受けたときに個人的に気が付いたのは血流の大きな左右差と脈波が非常に弱い状態があるということです。これらは筋肉の問題からなのだと思いますが、ここの部分は漢方的に「瘀血」という微小循環の悪化が関係していることを示唆していると思います。

今回のバクテロイデスの関与が考えられるという報道で、漢方的には脾陰との関連性と瘀血という微小循環の関連、それと免疫不全ということを考えて対応を考えれば少なくても症状の進行をゆっくりあるいは止めることが可能になるかもしれません。

このあたりは注目していきたい点です。