人によって「悩み」は色々ある


他の人からはくだらないと思うような事でも、当の本人からすると深刻だ


好きな人を考えるだけで何も手につかなくなる事だってある


欲しい洋服を想像して、夜も眠れない時だってある



その時期その時期に来る「悩み」というのは、その人の今の壁であり、乗り越えれば次の世界が待っているという位、大事な出来事だと思う



だから人が抱えている悩みに対しては、例え小さな出来事に感じても、軽く考えてはいけないし、決して馬鹿にしてはいけないと思う



まぁ30過ぎた僕は、そんなにピュアな「悩み」はないのだが、仕事の事では「悩み」の1つや2つはある


最近はクレーム対応や今後の計画などを考えていて、いつも帰りは夜中の2時過ぎくらいになっていた


今日もたまった仕事を見つめながら、気合を入れていたところだ



そんな時、僕の携帯が鳴った



Rからだった




今僕は男3人で3LDKのマンションにルームシェアをしている


全員30過ぎている大人なので、特に干渉したりする事もないし、時間が合えば気軽に呑んだりも出来るので、居心地はいい


その中の1人のRは昔からの友人である


「悩み」多き僕と違い、Rはとにかく明るい!仕事も悩む前に行動し、やり遂げる


休みは彼女と出かけたり、多くの友人とサッカーをやったり、バーベキューに出かけたりと、内気な僕から見たら羨ましい限りの存在であり、刺激にもなる人物だ




そんなRから「実は相談があって・・・」と何やら深刻な感じで電話をしてきた


内容を聞くが、「電話ではちょっと・・・もし、今日帰ってくるなら相談しようと思って・・・」


と言ってきた



さすがの僕も追及できずに、どうしようかと悩んだ




このたまった仕事を明日に回すと、それこそ徹夜になってしまう・・・



だが、今まで「悩み」から1番遠い存在ともいえるRが悩んでいる



Rが悩んでいるのを悩みながら仕事の悩みを悩んでいる自分を悩んで・・・



と、訳が分からなくなりそうだったので、僕は意を決して



「分かった!今から帰る」


と返事をした


「本当!じゃあ待ってる」と心なしかRの声が明るくなった


書類も全部ほったらかしにして、僕は会社を飛び出した



家路に向かいながら、僕は色々シュミレーションしていた



30過ぎた男の悩みは恐らく仕事の事だろうか・・・



「転勤が決まって、来月には家を出て行く事になった」


と言われたら


「家賃の事は気にするな!「今以上に稼ごう」というきっかけをくれてありがとう」


と言おう


「会社が潰れて、職を失った」


と言われたら


「神様が、少し休んでいいんだよと言ってるんだ!旅行でも行こう!」


と誘ってあげよう



その他様々なシチュエーションを想定して、僕は家に着いた



ドアを開けると、Rは元気のない笑顔を僕にくれた



「おかえり・・・実は・・・」とおもむろに話そうとするRに僕は



「ちょっと待って」



と言い、冷蔵庫からビールを取り出し、一気に半分位呑んだ



どんな内容でも、自然に振舞おう!そう心に決めて僕は



「珍しいなお前が相談なんて・・・どうした?」



と尋ねた



Rは言った




「・・・実は最近彼女と話してても盛り上がらないんだけど、どう思う?」






ん?




Rの目は真剣だった





思わず口にしてしまった




「くだらん」





























僕の会社にイベントを行う事業がある


簡単にいうと、企業からの新商品等をキャンペーンで紹介していくお仕事だ


メンバーのほとんどは昔からの仲間で構成されていて、シフトも自由なので色んな人がいる


他の会社に勤めている人も、休日の合間に働いてくれたりする


その中の1人で28歳のT君も他の会社に派遣社員として勤めているのだが、休日に出てくれている


T君は普段おちゃらけた部分もあるが、現場では一生懸命動いてくれるので、イベントをやるうえでいい存在感があり、とても助かっている


そんなT君の夢は、就職して「正社員」になり結婚する事だ


T君が今いる会社は派遣会社を通しているので、今は試用期間だが早ければ今月中にはそこで「正社員」になる事が出来るのだ


「正社員」になったら、こっちのイベントの手伝いは出来なくなるかもしれないから、少し淋しいが、夢が叶う瞬間が見れるのはいい事なので、応援していた



しかし28歳で初めて就職をしようと動き出した彼は色々大変だったようだ


会社に行ったら、「今日から3日間は泊まりでここに行ってくれ!」


と言われたり


一日中倉庫の番をやらされたり



でも、T君は夢の「正社員」の為に努力を続けていた



最初はとまどっていたT君だったが、最近では前向きな発言が増えて、「やりがいも出てきた」と言っていた







しかし、悲劇は突然起こる





試用期間を残り半月というところで、突然T君の携帯に派遣会社から電話が入った


たまたま近くにいた僕はT君が少しパニクッているのが分かった


長い電話が終わり、青ざめていたT君に


「何かあった?」と聞くと


「洒落にならないです・・・派遣会社から、その会社は今月で終わりですと言われました」と落ち込んだ声で教えてくれた




僕は夢が叶いかけて駄目になった瞬間を見る事が出来た



いつもならネタにして笑っている僕も、T君の落ち込みように


「まぁ不況だから・・・」


と、お手本のような慰めしか出来なかった


話しを聞くと、T君は「正社員」が決まったと自負していたので、実家の両親や親戚や彼女にも



「正社員になった!!!」と言ってしまったらしい



ネタにしたい内容盛りだくさんだが、僕は


「まぁこの不況だから・・・」


と少しだけ言い方を変えて慰める事しか出来なかった




これは約1週間前の話しである


T君は今も、来月から働く事はない職場で契約期間が終わるまで勤めている


だけど僕の本心を言えば、本当に良かったと思っている


職場の状況をT君から聞いた時に、そこはT君の良さが引き出せるとは感じられなかったからだ


きっと今回の事は、もっといい職場があるという合図なのだと思う


そう伝えたかったが、まぁ本人からしたら今すぐそうは思えないのも分かるし・・・と思うとなかなか伝える事が出来ずに1週間が過ぎていた



だが、伝えるチャンスがやっと巡ってきた



今日はそのT君の29歳の誕生日なのだ!



これはチャンスだ!と思い、どうせなら会社の仲間達にもメッセージを見てもらおうと、会社の仲間しか見る事が出来ない、インターネット上の掲示板に書き込む事にした



しかし、メッセージに色々悩んだ



T君の事だから、1週間も経てばケロっとして次の就職先でも考えているだろうとは思うのだが、実際あれから会っていないので、本当に落ち込みでもしたら・・・と考えると、下手な事は言いづらい


文章を作っては消し、作っては消しを繰り返していき、だんだん思考能力がなくなってきたので、結局




「誕生日おめでとう、派遣切りされたというネタを・・・経験をバネに、たくましく生きて下さいビックリマーク



と、シンプルな文章を送った



そしてこれに便乗したメンバーが


「生きる事を諦めないで下さい」


とか冗談半分でメッセージを送り出した



・・・大丈夫かな?



と少し心配した僕だったが、その本人から掲示板に送られた文章を見て思わず笑ってしまった



「皆さん、ありがとうございます。何の役にも立たない私ですが、せっかく生まれたんでとりあえず生きます



29歳:無職」



彼の再就職は近い気がする


















会社の事業内容の1つに、イベントを企画してキャンペーンを行う事業がある


簡単に言うと、新商品等をイベントで紹介して購入してもらったり、契約を頂くお仕事だ


僕は責任者という立場で、たまに現場に行っては一緒にキャンペーンをしたり、スタッフの指導をしたりする


まぁほとんどが昔からよく知る仲間でありベテランなので、特に指導する事もないのだが、クレームだけは避けるように指導している


契約を頂く仕事は、慎重にやらなければならない


スタッフからすると、ちゃんと説明した!と思っていても、お客様が聞いていない!と言われればそれまでなのだ


「言った言わないではない、伝わっているかどうかが大事なのだ!」


と口をすっぱく指導している


なぜなら、クレーム1つでこの事業が出来なくなる可能性もあるからだ


なので、うちの会社ではイベントで契約を頂いてから、翌日別会社のカスタマーセンターからお客様に電話をしてもらい、もう一度契約内容を確認してから、商品を発送する事にしている


カスタマーセンターに払う費用はかかるが、クレームが無くなるなら安いものだと思う


スタッフのクレーム処理は何度かした事はあるが、1日で終わる事は少なく、双方いい気分にはならないのは身に染みて分かっているからだ


僕も独自で色々お客様用の資料を作り、ここ最近はクレームらしいクレームはなく、実に平穏な日々が続いていた




・・・しかし、クレームとは突然来るものです



突然そこのカスタマーセンターから僕の携帯に電話が鳴った



いやな予感はした



「御社のイベントで契約をされたお客様からのクレームです・・・」



いやな予感は的中した



内容としては

「1年前に僕の会社が主催するイベントで申し込んだが、必要なくなったので解約をしようと連絡したら、2年以内に解約をすると違約金がかかると言われ、そんな事は聞いていない、払う気はない!」

と主張しているので、お客様の方に電話して下さい

との事だった


以前取り扱っていた通信機器の商品の契約に関するクレームだった


今や携帯電話でもインターネットでも2年契約というのは主流なので、スタッフがつい説明を省いたのか?とにかくお客様に伝わっていないなら、それはこっちの責任だろう

まずはお客様に事情を聞いて、内容次第では料金はこっちで負担する事も辞さないだろう


と思いながら、お客様の名前と電話番号を聞いた


「ちなみに誰が接客したお客様ですか?」


と最後に尋ねた


クレームを起こしたスタッフには、きちんと内容を説明して二度と同じ過ちを起こさないように指導していくのも僕の大切な仕事だ



「え~っと接客をされた方は○○さんですね」



と教えてくれた



想像とは違う名前に、僕はびっくりした





僕の名前だった




何度か聞き返したが間違いなかった



電話を切った後、昔の資料を調べてみたが確かに僕が接客したお客様だった



真っ先に「だってちゃんと説明したし・・・」と思ったが、立場上それは許されない発想だった




その後お客様と何度かやり取りをしたが、本当に伝わっていないという事が分かり、違約金は全額免除という方向で了承してもらった


まさかお客様も接客した本人がクレーム対応しているとは思わなかったのだろう


最後に


「契約というのは、簡単に説明してはいけないでしょう!口をすっぱくして説明するようにスタッフさんに指導した方がいいと思いますよ!」


と、言って頂きました



2人の僕は、お互い反省した1日でした