「福祉部長」は、地方自治体の中で社会福祉行政を統括する最上位の役職であり、さまざまな行政権限を有しています。
「福祉部長」は、「福祉事務所の長」を兼務することもあり、その場合には、各種の制度の保護措置、入所措置という職権(行政処分)を地方自治体の首長から委任されて行使します。
そういう意味では、他の部署の部長よりも、非常に重要な権限を持つ役割を担っているといえます。
地方自治体の「福祉部長」というのは、国でいう省庁の大臣等とは違い、選挙で市民から選ばれた議会議員(政治家)がその長としての役を担うのではなく、通常は、地方自治体の現役の職員(地方公務員)がその役を担います。
都道府県や政令指定都市などの行政規模の大きな地方自治体の場合には、中央省庁のキャリア官僚(国家公務員)が、部長職に派遣されてその職に就くことや、首長からの特命を受けて、民間などから登用されて、その職に就く場合などもあります。
地方自治体の福祉部局から発出されるほとんどの公文書は、通常、首長名で発信されますが、公文書に名前が記されるのは、いわゆる特別職のみで、「福祉部長」の役職名で文書が発出する場合があっても、その公文書の発信者は、通常、役職名までしか記さず、氏名が記載されることはありません。
ですから、普段から「福祉部長」の名前やプロフィールを良く知っている、という地域住民は非常に限られている、というのが現状です。
いずれにしても、行政規模の小さな町村などは別として、一般的な地方自治体において、地域市民は、今、「福祉部長」の役を担っている人は誰で(なんという名前で)、どのような顔立ちで、どのような経歴を持つ人物であるのか、について良くは知りません。
良く知らないというよりも、そのようなことには、ほとんど関心がないことでしょう。
住民にとっては、誰が「福祉部長」になろうが、別に自分にとっては何の利害も、関係もない、という程度の認識でしょう。
しかし、「福祉部長」とは、先に示したような非常に大きな権限を持っているとともに、地方自治体の予算の内、最も多額を占める「民生費」を取扱い、また、庁内最大規模の人数となる職員と組織を取扱い、各種の地域住民の福祉措置の権限を有し、これらを統括する責任者であるだけでなく、その地方自治体の地域全体の(民間等を含む)社会福祉事業のあり方をデザインし、その目指すべきビジョンを果たす役割を担い、その街の社会福祉分野のあらゆる事業に関して影響力を持つ、いわば「ジェネラルマネジャー」ともいうべき存在なのです(・・・おそらく本来は・・・)。
であるならば、どのような人が、その地方自治体の「福祉部長」であるのか、については、地域住民や社会福祉関係事業者とっては、大変、重要なことではないかと思うのですが・・・、読者の皆様はどのようにお感じでしょうか。
地方自治体の社会福祉施策や事業の計画、立案、実践・運営の成果の可否は、当然、職員の力量の差により、かなり影響を受けるものと考えられます。
そして、その影響を直接的に受けるのは、地域住民や社会福祉のサービス等を利用する対象者です。
しかし、地方自治体の職員事情は先に述べたとおりであり、それだけでなく、行財政改革の一環として、社会福祉に関連する専門的な機能の一部は、官から民へ、という流れが主流となり、地方自治体の職員の社会福祉分野の専門性は、近年、徐々に弱く薄くなってきているのが現状の姿です。
保健・医療・福祉の行政運営でよく耳にするのは、「あの人(その分野に非常に詳しく、専門的知識を備え、施策立案に対しても非常に熱心で、困難な課題や事象があっても、前向きに挑む人)がいたから、この取組みを前に進めることができた」という言葉です。
しかしながら、その一方では、地方自治体の公務員の仕事は、「担当する者が、誰であっても(人が変わっても)、これまでと同じ程度の質と量、企画提案力や行政サービスが提供される」ようになっていることが求められているはずです。
しかし、その後者の条件は、残念ながら、現実を反映しているとはえません。
地方自治体は、このように相矛盾するような課題を内包しているのです。
そして、地方自治体の「福祉部長」は、その現実の中で、この矛盾を受けとめた上で、福祉部という組織と、そこで行われる事業の立案から運営までをマネジメントしなければならないのです。
地方自治体の「福祉部長」は、その街の社会福祉に関する方向性やビジョンを明確に持ち、社会福祉分野全般に通用する専門性と、組織経営能力=「社会福祉経営(マネジメント)」=「マクロレベルのソーシャルワーク」の知識・技術・価値を備えていてもらいたいところですが、(繰り返しとなりますが)現実はそうではありません。
多くの地方自治体の「福祉部長」は、十分な地方自治体の「社会福祉経営(マネジメント)」または、「マクロレベルのソーシャルワーク」の理論や実践方法について、知らない方が多いのです。
社会福祉施策にかかる財源(カネ)の確保と、その裏に潜む危険性!?
前段で、地方自治体の「具体的な社会福祉の政策、施策、事業を企画・立案し、予算を積算・確保し、実践・運営するのは、実際には課長以下の担当職員」と述べましたが、実は、その表現には、一部に誤りがあります。
我が国の多くの社会福祉政策は、厚生労働省を主とした政府(以下、本書では「国」といいます。)の官僚によって作られ、法制化、事業化(政令化)されたものがほとんどで、地方自治体が独自に行う、オリジナルな社会福祉施策は一部にすぎません。
地方自治体では、独自サービスを提供したくても、そう容易くそれを増やすことは意外に難しいのです。
それはなぜなのでしょうか。
その答えはそれほど難しくはありません。
社会福祉施策には、非常に多くの財源(カネ)が必要で、それを確保するにあたっても多くの課題があるからです。
例えば、ある社会福祉施策の充実や拡充を進めるにあたって、ある時期に、一定の財源を確保してその施策を実施したとします。
その際に、その施策の実施期間や終期(やめる時期)を設けずに、半ば恒久的に継続するものとしてしまうと、その地方自治体の人口動態によっては、将来のある時点において、その施策にかかる経費が膨らみ、地方自治体全体の財政事情を圧迫してしまう、という危険性を裏に秘めているのです。(註)
国は、全国に共通して起こり得る、社会福祉のニードや課題への解決のために、ある一定の程度までを限度として、公平に支援する制度を作り、また、国は、それを地方自治体に運営してもらうために、一定割合の財源を負担する、という大きな枠組みがあります。
地方自治体に実施を義務付けた社会福祉施策の実施に関しては「交付金」が、地方自治体ごとに実施する事業を選択できるものには「補助金」が、国から交付されます。
地方自治体は、その事業にかかる一部を、税収等を中心とした「一般財源」というお財布から自己負担することで、各種の社会福祉事業を行うことができます。
国からの「交付金」や「補助金」を使うことは、地方自治体にとって財政的な負担軽減となりますので、各地方自治体は、自身の組織の判断で、また、必要性を見極めてこれらを活用しています。
しかし、地方自治体では、他の分野に関わる施策の推進との兼ね合い、バランス、優先度等の事情から、「一般財源」というお財布の中身から出せる額には限界があります。
唯でさえ社会福祉の分野は多くの財源がかかる中で、さらに、それに上乗せして予算を要求するというは、相当の理由と、首長をはじめ、庁内の企画部局や財政部局の担当者からの十分な理解を得なければなりませんし、その予算要求は、その後、地方議会の議案として上程した上で、地方議員からの承認を得なければなりません。
新たな社会福祉施策の実施や、その財源(カネ)の確保のためには、首長、庁内の企画部局、財政部局の担当者という、「内部」のステークホルダーや、地方議員という「外部」のステークホルダーからの「要求」や「制約条件」と対峙し、協議の中で、その落としどころや最終決定(妥協点、実施の可否など)がなされます。