次に、地方自治体自体が社会福祉経営(マネジメント)を進める上でのもう一つの論点として、組織管理と政治的な関与との関係の課題について触れたいと思います。

 

地方自治体の行政管理機構の中で、社会福祉の経営に重要な影響を及ぼすものが「人事管理」と「財政管理」、そして、そこに影響を及ぼす「政治的な関与」です。

 

地方自治体が効果を上げる社会福祉経営(マネジメント)を行うには、地方自治体の組織内部の管理と、外部からの制約条件への対処が非常に重要です。

 

しかしながら、地方自治体においては、そのような社会福祉経営(マネジメント)を意識した組織管理と、各種の制約条件への対処が十分に行われにくい構造上の課題が存在しています。

 

人事管理上の課題

その中の内、まず初めに、地方自治体における「人事管理」の課題から考えてみたいと思います。

 

人事管理上の最も大きな課題は、地方自治体内で定期的(又はときに不定)に行われる「人事異動」です。

 

地方自治体の扱う業務の幅は、非常に広く、多分野にわたっています。その地方自治体で採用されている職員の多くは一般行政職として採用されており、地方自治体内の各部署に配置されています。

 

一方、地方自治体の特定の分野では、専門的な知識や技能を備えていなければ業務を遂行できない部署があり、そこには、その部署に必要とされる専門職が採用、配置されます。

 

福祉分野の部局に関しては、その専門職が必要とされる部署が比較的多くあります。

 

職員の採用や配置の基本は、「適材適所」ですが、実情は、それはあくまで建前で、実際には、地方自治体内の限られた人材の中から、誰を、どこに、どのような役職で、配置するかは、執行部のトップ(首長をはじめとする特別職)と人事部局の裁量にゆだねられています。

 

ときに、本来必要とされている部署に、必要とされる職員が配置されないことも、しばしば起こり得ます。

 

例えば、ある地方自治体において、新年度に福祉部長のポストが空いたときに、これまで、福祉とは全く関係のない部局で管理職を務めていた課長クラスの職員がそのポストに就く、ということも、しばしばあるのです。

 

そのような場合、その地方自治体の社会福祉施策の進行に影響が及びかねない、という場合もあり得ます。

 

とくに、地方自治体の首長の改選があったときには、そのことが、起こりやすいといえます。

 

地方自治体における社会福祉経営(マネジメント)をより効率よく実施していくことを考えるに当たっては、この視点を持つことは不可欠です。

 

人事管理上の第二の課題は、地方自治体の政策立案や専門性の確保・維持に向けての「人材養成」のあり方についての構造です。

 

市町村等の比較的小規模な地方自治体においては、人材養成への考え方や力のかけ方は、国や都道府県、政令指定都市、企業等に比べると、非常に弱い、ということが挙げられます。

 

国や都道府県、政令指定都市、企業等では、総合職、専門職等に対し、将来の組織の幹部候補として、高度な政策形成能力を身に着けさせるために、在職中に、公費や、必要経費として大学院等の高等教育を受けさせたり、特定分野の専門的知識、技能を身につけさせたりします。

 

しかし、市町村等の比較的小規模な地方自治体においては、それらと同じようにはとてもできません。


この格差は、マネジメントにより違ってくるのかもしれませんが、財政力の厳しい地方自治体にとっては、個人の意欲に期待するしかありません。

 

研修を名目に、数年間、地方自治体の職員を、省庁や国の機関などに職員を派遣することが行われる場合もあります。

 

しかし、小規模な地方自治体にとって、中でも優秀な人材は、どの部署においても即戦力であり、手放したくない、という方向に考えが及がちですので、その職員を外部に派遣することさえも躊躇ってしまう、ということもあります。

 

そもそも、地方自治体においては、国や都道府県のような人材育成の仕組みが整備されていない、ということにも大きく影響しているかと思います。

 

地方自治体としては、内部に専門的な知識体系や技能を持たなくても、必要な専門的知識や政策の立案は外部の(民間の)研究機関やコンサルタントを活用すればよいという考え方も持っています。

 

その方が時間もコストも低く押さえられ、効率がよいのは事実で、近年は、これらの考え方が非常に高まって、国自体も、福祉関連でさえも、施策の立案のための根拠を整理する調査研究を、大手の研究機関やコンサルタントに委託することが通常化しています。

 

さらに、国は、専門的な知識や技能を持つ職員を期限付きで、専門官や参事官という名称で大学や民間の研究機関等から採用するなど、優秀な人材を活用することができますが、地方自治体においては同じような体制をとることは非常に困難です。

 

一方、地方自治体の側では、人材や能力を補うために、国の省庁のキャリア官僚に、地方自治体の課長、部長、副市長クラス等の、幹部の役職のポストに(出向して)就いてもらい、地方自治体の専門性やマネジメントを高めるという手法を用いることがあります。

 

しかしながら、これらをいつまでも続けていけば、結果、地方自治体の行政内部(執行部)には、政策立案と、そのマネジメントを進める機能や能力が高まるどころか、ますます弱まってしまうことになりかねません。

 

やはり、これらの状況を考えると、地方自治体においても、政策立案と、そのマネジメントを進める機能や能力を養成する必要があり、それは、福祉分野においても同じで、社会福祉経営(マネジメント)を意識して実践することのできるリーダーの養成が必要であると思うのです。