ある日の出来事。

山手線の車内で、少し不思議な感覚を覚えた。

今、私は一人。
この、お昼の山手線にしては空いている車両にいる人々を見渡して見ても、
知り合いは一人もいない。

私を知っている人も、一人もいなさそうだ。

全くの偶然で同じ電車に乗り合わせた人々。

もし、今ここで大地震やテロなど、凄い災害に巻き込まれたなら、
この見知らぬ人々と運命を共にする事になる。

大きな困難が襲いかかって来た時、彼らと協力して、
それを切り抜けなければならなくなる。

その時に役に立ちそうな人はいるかな?


あそこの学生は少しチャラそうで、そんな場合には真っ先に逃げそうだから
役には立たないだろうし、
あそこのオヤジは、実直そうなサラリーマンだろうけど
いざと言う時にも自分の判断で動けずに、すくんで固まってしまいそうな印象だし、
あそこのオバサンは、きっと悲鳴とかうるさくてパニくるんだろうな。

どうも、今、何かがあったら自分が一番しっかりしないといけないな。

まぁ、飛行機でもエレベーターでも乗る時は、そんな覚悟でいるから
大丈夫だけど。

私はいつも、『しっかりしてる』から。



あ、ずっとこちらを見ている若い男がいるなぁ。

知り合いかな?

いや、知らないな。


私も、大した事ないけど少しは有名人なので、TVとかで見てくれていて
知ってるのかな?

それとも、私のファンなのかな?


あ、向こうから近づいて来た。



『田中先生ですか?』

あ、やはりファンの人だ。
握手かな?サインかな?



『あの~、、、、、

 チャック開いてますけど、、、』



ヒエ~ッ!
私が一番『しっかりしてない』じゃん!!!