『ムーティエが来た!タニノムーティエが上がって来た!』

信じられないと言うアナウンサーの絶叫の中、4コーナー大外から上がって来た
一頭の栗毛馬。


彼は喉の病気にかかってしまい、このレースは引退レースだったのに、、、

そんなに無理しなくても、皐月賞、ダービーで僕らを魅了したあの豪脚は
すべての人の記憶の中で、色褪せたりしないのに、、、

とても、淀の3000mを走り切る事の出来ない身体だと言う事は、
僕ら皆んな分かっていたのに、、、


どうか、無事で走ってくれさえすれば良い。

僕ら皆んなの願い。


でも、君は最後の力を振り絞って、十分な呼吸も出来ないのに、
全盛期にいつも魅せてくれた、あの4コーナー大外のまくりを繰り出そうとしたのだ。



その時、ゴール前のラチに寄りかかって4コーナーの方を見ていた僕は、
涙で何も見えなくなった。

最後の君の勇姿、この眼にしっかりと焼き付けたかったのに、、、

何も見えなくなってしまった!


直線に入り最後には君は失速して、僕の前を通り過ぎたんだね。

その儚い姿も、僕は見る事が出来なかった。


でも、僕は君に見せてもらったよ。


どんなになっても、誇りを失わず生きる姿を!

僕もボロボロになっても、皆んなから「もういらない」と言われても、
最後の日まで生きぬくんだ。


誇りを持って。