岸信介総理大臣が出した手紙です。
岸信介は安倍晋三元総理の祖父であることは知られていますが、本名が佐藤信介で、佐藤栄作総理大臣の兄であることは意外と知られていません。岸信介の父が佐藤家の婿養子だったので、次男の岸信介は中学生の時に父の実家の岸家に養子に出されたそうです。
戦前は東大から農商務省へ入り、後に満州国務院入りし、満州国の運営に関わるようになります。
そして東条内閣では商工大臣となり、戦後は公職追放を経て政界復帰。石橋湛山内閣で外務大臣となります。そして石橋湛山が病に倒れ首相を引き継ぎ、1957年に岸信介総理大臣が誕生します。
この時代を理解するには、ソ連の脅威を理解する必要があります。
1945年に第二次世界大戦（ワールドウォー）が終了しましたが、そこから米ソ対立の冷戦（コールドウォー）が始まりますよう
中華ソビエト共和国の名称で活動していた毛沢東ら中国共産党は、ソビエトの支援を受けて中国内の内戦を戦い、中華民国の蒋介石を台湾に追い出し、1949年に中華人民共和国を設立します。
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その翌年の1950年、金日成の北朝鮮軍が一気に38度線を越えて朝鮮半島のほぼ南端まで展開。朝鮮戦争が勃発します。マッカーサーは朝鮮半島南部を奪還すべく仁川上陸作戦を行いますが、この作戦立案には朝鮮半島と満州を長く経営していた日本の軍関係者が関わっていました。
このような状況からアメリカも満州や朝鮮に関係していた人間の経験が必要となり、方針転換し彼らの公職追放が解かれます。
岸信介はこのような状況で政界に復帰して、総理大臣となりました。
ところで吉田茂首相（麻生太郎元首相の祖父）は、アメリカ占領時代に作成された日本国憲法を盾にして、朝鮮戦争への日本の参加を断ってきました。
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それでもソビエト、中国、北朝鮮と、共産勢力は南下を続け、1955年にはベトナム戦争が始まります。
岸信介が総理大臣になるのはこの2年後の1957年です。
岸信介首相誕生の翌年、1958年に日米安全保障条約（日米安保）の改正交渉が始まります。これまでの米軍主体の日本防衛でなく、日本の自主防衛を認めての集団的自衛権という形になるのですが、つい数年前まで敵対してきたアメリカに対する反発と、アメリカに敵対する北朝鮮や北ベトナムといったアジア圏への共感が合わさり、日本国内では反安保の運動が加速します。
国内での安保闘争が過激化した昭和35年（1960年）、総理大臣岸信介は辞意を表明しました。
後継首班に池田勇人が指名された7月14日、岸信介は右翼団体構成員の荒牧退助に刺され重傷を負います。
この手紙は、刺され入院していた岸信介の病室へお見舞いにきた政治家笠井重治氏に向けて、退院後の7月26日の日付で送ったお礼の手紙になります。
笠井重治氏は明治19年（1886年）生まれで、アメリカへの留学経験もある政治家でした。
戦後の昭和21年（1946年）に衆議院に当選、後に日米文化振興会会長に就任します。
切手は貼られていませんが、「国会内局 料金別納郵便」の消印が捺されています。
岸信介が総理大臣だった時代というのは、おそろしく舵取りが難しかった時代だと思います。
現代から振り返ってみれば、その選択が正しかったとわかりますが、あの時代に翻弄されている民衆の一人だったらどのように見えていたのか。
ところで、岸信介の家系は面白いもので、まず岸信介の父が佐藤家に婿養子で入り、岸信介の弟が佐藤栄作で、岸信介の娘と結婚したのが元毎日新聞記者だった安倍晋太郎元首相、その次男が安倍晋三、三男が岸家に養子に出された岸信夫元防衛大臣になります。家系図書くと線が大変な事になります。