なんで、あんな事言ったんだろう。

 

言葉は、戻らないのに

 

久しぶりの電話だったのに。

 

時間が気になった。

まだ5分しか話してないのに

きっと、この後も

やらなきゃいけない事が

たくさんあるだろうから、

切ろうとしたら、

 

“お前さ・・”

 

 

 

“俺といて楽しい?”

 

正直

 

楽しくなかった。

 

最初は、会えるだけで

嬉しかったのに、欲張りな私は、

どんどん“普通”を求めるように

なっていて、

 

それができない事に気づいて

落ち込んでしまう事に

少し、疲れていた。

 

彼とできる事は、

誰にも知られずに

隠れるように会って

どこにも行かずに

キスしてSexして眠る・・。

 

朝を迎えられたらいい方だった。

月夜に紛れて帰らないといけない

日の方が多かったから。

 

友達から聞かれて

答えられるのは

 

“彼氏はいる”

“遠恋中”

 

そのぐらい。

写真は見せられない、

悩みも打ち明けられない。

 

それでも、“会いたい”って

思ってしまう私が

可愛そうなくらいだった。


でも、その言葉だって、

口にすれば、“ごめんな”って

言わせちゃうから、

それすら言えなくなった。

 

“俺にしとけ”

 

頭の中、繰り返されるのは

私とユンギの事を唯一知ってる

幼馴染の声。

 

おとといの夜。

“ちょっと、付き合え”

 

そう言われて連れ出された。


並んで歩く道。

一緒に見上げた空に

 

“もう少しで満月だな”

 

“そうだね”


他愛もない会話をしながら

着いたのは、近くのラーメン屋。

 

“こんな時間に?”

 

 

そう言いながら

ちゃんとカウンターに座った私に

 

“いいから、食え。

最近、元気ないだろ”

 

元気がないって

気づいていた事に驚きながら

 

目の前に来たラーメンから

立ち上る湯気で曇った

メガネを外した。

 

 

“次、あいつと会えるのいつなんだ?”

 

麺を口にいれながら聞かれた。

 

・・・次は・・半年あくかな・・

 

“それ・・付き合ってんのか?”

 

“付き合ってるよ”

 

言い聞かせるように答えたら

 

名前を呼ばれて、言われた。

 

“俺にしとけ”

 

楽になれるとは思った。

今、ユンギとできない事は

全部、できる。

外に出て、手を繋いで歩く。

ゴハン食べたり、映画に行ったり

 

だいぶ、弱ってると思った。

 

会いたい時に会えない現実に

もう、1人で立ってられない。

 

そんな時に聞かれた

“俺といて楽しい?”

 

楽しくなんかない。


できない事ばかりで、

それでも頑張ってたのに、

会いたいって言葉も飲み込んで

楽しいより、寂しいが大きくなっても

頑張って、笑ってたのに

 

泣き声は聞かせたくなかった。

 

 

焼けつく喉を手で押さえて

 

“そっちは?どうして、私といるの?”

 

私としてる事は、

私以外とでもデキるでしょ。

 

何かを言いかけたのは聞こえたけど

もう限界だったから、

電話を切った瞬間、

 

涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

どのくらい、

時間が経ったんだろう。

 

明かりもついてない部屋を

照らすのは、窓から

差す月明りだけだった。

・・・。

 

インスタの通知が光っていた。

 

 

動画・・だ。

 

ピアノの前に座った、

彼の横顔、視線が

窓の外に動いたように見えた。

 


 



 

動き始めた指、聴こえたのは

 

・・・・。

 

 

 

 

もぅ・・

 

ズルいなぁ

 

 

このまま話せば、

きっと泣いてしまう。

それに、何かの作業中かも・・

 

それでも

 

RrrrRrrrr

 

見上げた空に浮かんだ月。

 

いつか、彼が言った。

 

“負けそうになったら、お前と一緒に

見れるモノを見る”

 

“どういう事?”

 

“月や、太陽や、

同じ時間にいられたら、時計”

 

“全部、普通に見るでしょ”

 

私の返事に背中を向けたから

拗ねてるのがわかった。

 

それでも黙ってたら、

 

“それだけ、俺の中では、

お前が全てになってるって事だよ”

 

・・・・。

 

RrrrRrrrr

 

全部、記憶して

大切にしてるつもりだったのに

 

『もしもし』

 

「あ・・」

 

耳元で聞こえた低い声に

言葉が出なかった。

 

『曲・・聴いた?』

 

「・・ん」

 

 

 

 

『勝手な事、言ってるのはわかってる。

俺がしてあげられる事は・・他の奴でも

できるだろうし、それ以上の事も・・』

 

・・・・。

 

『でも・・傍にいたい・・』

 

会いたい時に会えなくて

誰にも言えない関係で

外に出る事もできない

でも・・

 

 

「じゃあ、私が・・会いたいって

言っても、謝らないで。

ただ、俺もって言ってほしいだけなの」

 

会える日の前日は、なんでも許せる。

会えた時に見せるあなたの全てを

記憶しておきたい。

体温も、その低い声も、

笑顔も、すねた顔も、寝顔にすら、

 

胸が苦しくなるほど

 

『俺も言っていいか?会いたいって』

 

私の感情を揺さぶるのは・・

 

『会いにいけるわけじゃないのに・・』

 

あなたしかいない。

 

「そう思ってくれる事が嬉しいんだよ」

 

『俺は、お前を幸せにできてるか?』

 

そうだね。ちゃんと、

伝えないとわからないよね

 

「うん、幸せだよ。私を幸せにできるのは

ユンギだけだから」

 

 

 

 

 

『あー・・ぁ』

 

 

『今、すげー、会いたい』

 

泣くと思ってたけど

思わず笑ってしまった。

 

さっきまで、失意のどん底に

落ちてたはずなのに。

 

そういえば・・

 

私は、強いんだった。

 

「私も会いたい」

 

 

 

『愛してる』

 

言葉を尽くして

 

「私も愛してるよ」

 

 

『月、キレイだな』

 

「今日は満月だって」

 

 

『あぁ、それでか』

 

同じモノを見て

 

いつか・・

 

 

お日様の下を

 

手を繋いで散歩しようね。

 

☆☆☆☆☆☆☆