Jiu >

 

 

時間が早かったから

バスの中はガラガラで

余裕で席に座れたけど、

座った瞬間、乱暴に発進したバスに

軽く、身体が揺れた。

 

・・・私


思わず、口元を隠してしまった。



・・何、言ってるんだろ

 

でも、

ちゃんと・・伝えないと

だって、このままいくと

たぶん、クリスマスあたりに

アレが始まる気がしていた。

 

きっと、それより考えないと

いけない事はあるんだろうけど

 

・・・・。

 

まだ、オンマとアッパにも

もちろん、ヘジンさんにも

連絡はできないでいた。

 

考えたくないから

考えない。

 

それでいいって

ジミンさんは言ってくれた。

 

・・・。


窓の外の景色は
ジミンさんの家から出勤する時は
確かに変わる。

でも、初めて見る訳じゃないのに。

こんなに違うんだな。


今日も明日も、帰るのは、

ジミンさんの家。

 

でも、それが前より

幸せに感じられるようになっていて


それが、すごく、嬉しかった。

 

大丈夫。


少し時間が過ぎたら、

ちゃんと向き合える。



 

 

あ、そうだ、

 

 

昨日、寝る前にしなきゃと思って

やっぱり、忘れていた。

 

アプリを開いて

動画のチャンネルを確認する。

 

最近、配信してなかったから

 

 

おっ

 

 

 

 

 

 

 

コメントが入っていた。

 

しかも、


さっき?


!? 

モッチさんだ

 


“お久しぶりです。

次の動画、楽しみにしてます”

 

 

 

よかった。

 

ゲームもしてない様子だったし、

なにかあったのかと思ってた。

 

んー・・

動画はすぐには難しいけど

 

ゲーム、今日はするのかな?

 

・・・確認だけしてみるかな?

 

 

うん、確認だけ・・

 

 

♪♪♪

 

 

Lさん?

 

『おはよ。今日、予定ある?』

 

今日・・

 

っていうか、

 

『おはようございます。

もう起きたんですか?』

 

まだ8時前

 

『今、帰ってきた』

 

あ、朝帰りか

 

『身体、気を付けてくださいね』

 

『飲んでないから大丈夫よ。で、

今日は?』

 

 

『今日は用事があるので

別日でいいですか?』

 

シュっと音がして、

秒で返ってくる。

 

『もしかして、一緒に住んでるの?

今、休暇中でしょ』

 

・・・・あー

 

 

『はい』

 

『あっちが、外に出るなって?』

 

ち、

『違います』

 

『束縛、強いなら、

今のうちに別れなさい』

 

なんで、そーなるの?

 

『そんなんじゃないです。

今日は、ほんとに

用事があるんです』

 

私から言い出した用事が・・。

 

『ふーん・・じゃあ、職場に行くわ。

時間、とらないから。上がりは何時?

迎えに行く』

 

・・・・なんだろ

 

なにか、話したい事があるのかな

 

『わかりました。

今日は18時までです』

 

『了解』

 

 

 

・・・そういえば

 

Lさんとも久しぶりだった。

 

 

 

 

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

「Lさんっ」

 

「遅」

 

「すみません」

 

近くの駐車場で待ってると言った

Lさんの車は真っ赤だったから

すぐにわかった。

 

「どうしたんですか?」

 

乗り込んだ車内、

 

「家、どこ?別にあるんでしょ」

 

私の質問に答える前に

シートベルトを

はめながら聞いてきた。

 

「え」

 

「家。まさか、あっちの

バレてる方に帰るの?」

 

あ、

「あぁ、いえ、別のとこ・・

ん?・・あれ?」

 

引っ張ったシートベルトが、

動きを止めた。

 

「まったく、シートベルトも

できないの?」

 

そう言って、私に

覆いかぶさるように近づいた

Lさんの身体は、すごく、

 

 

いい香りがした。

 

 

「いい香り」

 

「ん?あぁ、これ、新作。

ちょうどよかった。

ミニボトルもいれてるから」

 

カチっと音がして、

離れた身体は、

次は、後ろにひねられた。

 

 

「はい」

 

「なんですか?」

 

「クリスマスプレゼントよ」

 

 

 

すみれ色の小さな

ショッパーズの中には3つの箱。

 

「これ」

 

「新作」

 

それぞれに入っていたのは

アイシャドウとリップ、それから

フレグランスのミニボトル。

 

全部、Lさんプロデュースのモノだった。

 

「ありがとうございますっ」

 

 

「嬉しい?」

 

「はいっ」

 

すごいなぁ。

コスメのプロデュースまで。

 

メディアにも出始めたLさん。

 

それもあって、

簡単には会えなくなったんだけど

 

「それ、ちゃんと言うのよ」

 

「誰にですか?」

 

「彼氏。あんたが隠そうとしたとこで

すぐにバレるんだから。で、

めんどくさい事になるでしょ」

 

めんどくさいって・・

 

まぁ、でも

 

「確かに。Lさんからですからね。

別にやましい事ないから隠す必要

ないですもんね」

 

「心外ね」

 

「え?」

 

「んー、べっつにぃ。

上手くいってるのね」

 

「はい」

 

「幸せ?」

 

「すごく・・幸せです。

ジミンさんと出会えてよかったです」

 

「そう・・なら、よかった」

 

「Lさんは?」

 

「何が?」

 

動き出した車は、

少しスピードを落として進む。

 

「新しい彼氏さん」

「いないわよ」

 

「・・クリスマスですよ」

 

「仕事よ・・なんで

憐れんでんのよ」

 

「あ、憐れんでないですよ」

 

「あんただって今だけよ。向こうが

休暇あければ忙しくなるんだから。

寂しくて、泣きついてきても

遊ばないからね」

 

「・・大丈夫です。会えなくても、

傍にいられるので、寂しくは

・・いたっ」

 

急に左のほっぺたを

指で挟まれた。

 

「そんなのは、ほんとに離れた時に

わかるのよ」

 

・・・・。

 

「まぁ、どうしても、寂しい時は

連絡しなさい。彼氏じゃ

埋められない事もあるんだから。

いくらJIMINがデキた子でも、

“友達”や“家族”の役までは

できないでしょ」

 

“家族”・・か

 

「Lさんは、何になるんですかね」

 

仲間・・友達・・

 

「私~?」

 

少し考えた様子だったけど

なぜか、楽しそうな音で返ってきた。

 

「“煽り”役」

 

あおり・・とは

 

「っていうか、どこよ。家。

とりあえず、走ってるけど」

 

あっ

 

「〇〇〇〇です」

 

私の言葉に

大きなため息をついて

 

「通り過ぎたじゃない」

 

そう言いながらも

ウィンカーを出して、

スムーズに横の車線に入っていく。

 

「ごめんなさい」

 

「別に、いいわよ・・その分、

あんたとの時間が伸びるんだから」

 

「え?」

 

「なぁんでもない。あ、言うの

忘れてた。そのフレグランスね、

セリフを持ってるの。後で教えるから

彼氏に教えてあげなさい」

 

「はい・・わかりました」

 




セリフ・・なんだろう

 

 

 

 

 

「どんな顔するのかしらね」

 

 

 

Lさんが楽しそうだったから

 

ま、いっか