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【18:56】

 

Jiu >

 

 

 

この前と同じ店、

同じ部屋で待ち合わせた。

 

でも

 

 

「ヘジンさん・・」

 

椅子から立ち上がったのは

 

ジアンさんではなく、

白いワンピース姿のヘジンさんだった。

 

「え、と」

 

「あの子は来ないわ」

 

「あ・・、はい」

 

「座って」

 

頷いて、ヘジンさんの前に足を進めた。

 

 

「あの子が、写真を見てたなんて

知らなかったわ」

 

ジアンさん、

ちゃんと、聞いたんだ。

 

「話、聞いてくれる?」

 

 

「ほんとうの事・・ですか?」

 

 

私の言葉に、一度、

口を閉じたヘジンさんは

ゆっくりと頷いた。

 

 




「ジア二にも正直に話したわ。

“姉”がいる事」

 

膝の上に置いていた手に力が入る。

 

 

「ど、して・・離れたんですか」

 

「もう、知ってると思うけど、

私と夫の関係は、いわゆる“身分違い”で、

祝福されたモノではなかった。中でも

1番反対していたのは夫の祖母でね。

それでも、お互い、離れる事は

考えられなかったけど・・私が妊娠したの。

それを知った祖母が、子供を堕すように

言ってきたわ。“ちゃんと”お金を持ってね。

私は・・産みたいと伝えたけど、夫の未来を

考えろって・・。愛してるなら身を引けと

言われた」

 

・・・・。

 

 

「悩んで、悩んで・・でも、私には、

やっぱり、子供を堕ろす事は

できなくて・・彼と別れる事を決めたの。

不安はあった。この国でシングルマザーで

生きていく事は、今より、ずっと

難しい事だったから。それでも、

守りたい気持ちが強くて・・」

 

すごく・・苦しんだんだろうな。

 

話しながら、テーブルの上で組んだ

ヘジンさんの手が震えていた。

 

「そんな中、祖母が不慮の事故で

亡くなったの。もともと、彼の両親は

祖母ほど反対はしてなかったのもあって、

彼が、両親を説得する形で私との結婚が

許されたけど、それでも、条件は出された。

子供は・・連れてこない事」

 

・・・・。

 

1度は、

子供と生きていく事を選んだヘジンさん。


1つの愛しか、どちらかしか、選べなかった。

 

「・・オンマ達とは、もともと

知り合いだったんですか」

 

「美容院に行ってたの。妊娠がわかってから

初めて行った時、ヌイさんも、妊娠してるのを

知って。しかも予定日も近かくて」


同じ時期に妊娠?

 


 

「あの時の私には、相談できる人がいなくて

・・でも、ヌイさんが妊娠してる事を知って、

勝手に味方に思えて。話すようになったの。

私の事情を知った上で、ヌイさん、

生まれたら、一緒に遊ばせようって。

働くなら、うちに預けてもいいしって、

そんな事まで言ってくれて。あの時、

堕ろす選択をしなかったのも

ヌイさん達がいてくれたから。でも、

それから、しばらく行けなくなって。

次に行けたのは、もう8ヶ月に

なった頃だった。そしたら、火事で

・・お店がなくなってて、

ヌイさんが入院してる事を聞いたわ」

 

 

 

 

・・・・・火事

 

 

 



 

 

火事は・・

 

 

嘘だと思ってた。

 

3歳までのオンニの写真がなかった

 

 

オンマ達は、

火事でアルバムが燃えたからだと

言っていて、私も信じていた。

でも、それは

オンニと私の血が繋がってないと聞くまで。

 

勝手に思っていた。

 

オンニが3歳で養子になったんだと。

 


 

心臓が、強く打った。

 

それに

「オンマが入院って・・」

 

その話も初めて聞いた。

 

火事はあったけど、

無事だったって。

 

 

「逃げ遅れていたヌイさんは、

多量の煙を吸い込んでいて、

ほんとなら、ヌイさん自身も

危なかったの。でも・・

ヌイさんは助かった」

 

 

オンマ“は”

 

「あかちゃん・・は」

 

「・・助からなかったわ」

 

・・・・。

 

 

「その事で、ヌイさんは・・

精神を病んで入院していると」

 

オンマが・・

 

 

「“運命”だと思ったの」