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「何か飲みますか?」

 

「いえ、お水で、」

 「オレンジジュースでいいですか?」

 

・・・

 

「じゃあ・・はい、それで」

 

 

ほどなくして

 

 

テーブルの上には

オレンジジュースと

 

 

 

 

次々と運ばれてきた

美味しそうな料理が並んだ。

 

・・・

 

「え・・っと、ジアンさん」

 「乾杯しましょう」

 

「え、あ・・はい、乾杯」

 

「乾杯」

 

私に合わせたのか

オレンジジュースが入った

グラスが軽く音を立てた。


お酒、飲まないのかな

 

「お酒とタバコはやめる事にしたんです」

 

声は出てないはずだけど・・。

 

どっちにしたって

「あの、話って・・」

「ごはん、食べましょう。

私、おなかペコペコで」

 

実は、私もそうだったから

けっこう簡単に頷いてしまった。

 

 

 

「んっっ・・・おいしい」


普通に声が出た。


 

初めて来た店だった。

 

というか、存在を知らなかったのは、

それなりの人達が使っているから?

 

9Fで1度降りて、

受付みたいなカウンターで名前を伝えると

奥の階段に案内された。

 

 

 

完全なる個室で

 

話って・・

 

ヘジンさんに対する記事も

ジアンさんの記事も

おさまりをみせていたけど

ヘジンさんの旦那様の方は

まだ時間がかかりそうだった。

 

ヘジンさん、大丈夫かな。


「オンマとアッパは離婚しないみたい」

 

何も言ってないけど・・

 

 

「別に私は、どっちでもいいんだけどね」

 

どう返したらいいのかわからなくて

頷くしかできない私に、ジアンさんは

かまう事なく言葉を続ける。

 

「オンマがいてくれれば」

 

・・・・

 

 

「ヘジンさんと・・

仲直りできたんですね」

 

「・・ん」

 

 

よかった。

 

その時、カタンと音が鳴ったから

自然と顔を上げてしまった。

 

 

フォークを置いたジアンさんが

1度、口を結んで

 

「ありがとう・・ございました」

 

頭を下げた。

 

「え?」

 

「その・・オンマとの事・・

仲直りできたのは

ジウさんのおかげだから。

今日は、ちゃんと

お礼が言いたくて」

 

お礼・・だったんだ。

 

ジアンさんの視線は、

ちょうどテーブルの真ん中に

置かれたお皿のとこだったけど、

流れた髪を耳にかけた時、

その耳が真っ赤になっていて

 

・・可愛い

 

「私は、何も」

 

やっと、力が抜けた。

 

「ううん、あの時、ジウさんが

私の足を止めてくれたから。

あのままエレベーターに乗ってたら、

きっと・・私は、ダメな方向に

いってたと思う」

 

「勇気を出して、ヘジンさんの方に

行ったのはジアンさんです」

 

「だって、ジウさんが言ったでしょ。私は、

もう大人だって。だから、自分が選んだ

未来は、もう誰のせいにもできないって」

 

「あぁ・・ごめんなさい、

なんか、すごくえらそうに」

「違うの、その言葉でわかったの。

今まで、子供扱いしてほしくないとか

言ってたくせに、嫌な事があると、

オンマのせいにしてた。オンマが

私を独りにしたせいだって。でも、

それって、オンマに私を

見てほしかっただけで。

オンマの傍を離れたくないって

思ってたからだって。

エレベーターに乗るのは嫌だった。

それが、わかったから

オンマの方に足を動かせたの。

あの時、逃げてたら、もう

オンマとの時間もなかっただろうし、

未来も決められなかった」

 

「未来?」

 

「あ、私ね。モデルの仕事、

辞めるんだ」

 

「え?どうして?」

 

「んー、もともと、やりたかった事

じゃなかったし。オンマとアッパの

子供だからメディアに出れていただけで、

裏では、いつも言われてたの。

“親がえらいと楽に仕事もらえて

いいわね”って。でも、そのとーりだと

思ってたし、正直、努力しようとも

思わなかった。なにもないよりは

いいって思っただけで」

 

「そう・・だったんですね」

 

それでも、仕事として

できたのは、頑張った証なのに。

 

「うん、それに・・私、ほんとは、

おいしいモノ食べるのが大好きなのに

撮影とかショーの前は、体重管理が

すっごく厳しくなるから、何も

食べれないし・・」

 

「大変な世界ですもんね」

 

アイドルもだけど、

内臓どこに入ってるのか

心配になるぐらい細い人もいたし・・。

 

倒れてる人も多かったな。

 

「でも、もうそんな必要ないし、

今日は、いっぱいおいしいモノ

食べようと思って、この店にしたんだ」

 

「なるほど・・たしかに、

すごく美味しいです」

 

「よかった」

 

笑顔の彼女は、

すごく可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、のさ、ジウさん」

 

「はい?」

 

 

「その・・敬語・・やめない?」

 

 

「ほ、ほら、私は、年下だし、

敬語とか」

 

「あ・・え、と」

 

「なんか、距離も感じるし」

 

と言っても、

 

2回目なんだけど

 

 

でも、

さっきと同じように下がった視線と

真っ赤になった耳に

一生懸命、伝えてくれたのがわかって

 

「わかりました・・あ、わかった。

じゃあ・・敬語はナシで」

 

私の言葉に

 

「うん」

 

すごく嬉しそうに笑ったから、

つい、つられてしまった。