10月13日(木)【3:12】

 

JIMIN >

 

もう、寝たかな、

 

飛び込むように座った

ゲーミングチェアが、はずみで

スライドするように動いたから、

PCの電源に1発で手が届かなかった。

 

慌てる手元に、他人事のように

必死さを感じてしまったけど

 

頼む、まだ、やっててよ

 

実際、必死だったし。

 

“説得”するには、

ココで会わなきゃ。

 




あ、

 

いたっっっ

 

画面の右端に

彼女のアイコンが光っていた。

 

 

しかも、ソロ・・

 

よし、誘いやすい

 

彼女のアイコンをクリックして、

チャットを送る。

 

『次、デュオ行けますか?』

 

すぐに気づいてくれた彼女を

待つ事にして・・

 

やっと、息をつけた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは」

 

待機画面に映り込んだ彼女に

声をかける。

 

“モッチ”として。

 

 

『こんばんは、お久しぶりです』

 

この前も聞いたはずの声なのに

 

「おひさしぶりです。

お元気でしたか?」

 

『はい。モッチさんは・・

風邪ひかれたんですか?』

 

 

「いえ、元気ですよ」

 

『そうですか・・なんか、

声が違うような気がしたので』

 

!?

 

しばらく離れていたから

“モッチ”の設定がわからない

 

声・・もっと低くしてたっけ?

 

「あー、あぁ・・そーぅですね、

少しだけ風邪ひきましたけど

・・そんなに違いますか?」

 

『はい。前は、もっと

低かった気がして』

 

OK、“次は”気を付けよう。

 

『もう、大丈夫なんですか?』

 

「はい、もう、大丈夫です。

・・ジウルさんは何時から

してたんですか?」

 

この時間って事は・・

始めるの遅かったのかな・・

 

『昨日、帰りが遅くて、

開始21時からだったので

・・まだ、6時間ですね』

 

・・・『まだ』?

まったく・・

 

「倒れないでくださいね」

 

『はい、大丈夫です。

水分補給もしてるし、途中で

運動もしてますから。それに、

今日は、お昼から“デート”なので、

そろそろ寝ないといけないんです』

 

で、

 

“デート”?

 

「で・・とって・・彼氏・・さん

ですか?」

 

いや、彼氏は・・俺だし

 

『いえ、あ、オンマと。2人で』

 

 

 

あぁ、そっちか・・

 

お母さんと“デート”って事は・・

 

ユイさんのところか

 

今日の事・・話すかな。

ユイさんの笑顔が見れたらいいな。

 

『モッチさん?』

 

 

「・・仲がいいんですね。

お母さんと“デート”って」

 

『はい、大好きなんです。

だから、すごく楽しみです』

 

彼女が1日、笑顔で過ごせるなら

それだけで嬉しかった。

 

でも、寝ないといけないなら

 

「じゃあ、最後の一戦ですか?」

 

話す時間あるかな

 

『んー、と思ってましたが、

せっかくモッチさんと

できるので・・あと30分は・・

あ、でも、モッチさんは時間』

 「大丈夫です」


彼女の中で“30分”の単位はない。

4時まではできるか

 だったら、話はできるな。

 

『そうですか。じゃあ、行きますか』

 

そう、まずは、

やってからじゃないと・・

 

頭の中は、“説得”に向けての

シナリオが動き始めていた。

 

 

~・~・~・~

 

 

・・・ん?

 

玉の動きがおかしくないか?

 

今、

『モッチさん、あれ、

*チーターですね』

 

「やっぱり」

 

少し離れた所にいた別のプレイヤー。

 

空中に飛んで撃った玉が

曲がって当たってる気がした。

 

「初めて見ました」

 

『私もあのタイプは初めてです』

 

・・・あの“タイプ”ね

 

少し、緊張したような声に

瞬きする間も惜しむように

画面を見続けるジウが見えて

こみ上げてきた笑いを

必死で飲み込んだ。

 

しっかし、

どこの世界にもいるんだな

ズルい奴は・・

 

でも、勝てる訳ないし、

「通報しますか。アレがいたら、

無理ですね、勝てないで」

『いえ』

 

・・・・

 

『よく見てたら、建築したモノは

通さないみたいです。

もしかしたら、いけるかもしれません』

 

・・・。

 

「作戦があるんですか?」

 

『はい、縦積みで近づきます。

モッチさん、後ろで援護してください』

 

・・・・

 

 

 

 

かっけー

 

『私・・あーゆーのに負けるの

嫌いなんです』

 

・・・・。

 

 

「・・わかりました。

やっつけましょう。援護します」

 

ほんとに・・

 

『はいっ』

 

俺の彼女さんは、かっこいいな。

 

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

『お疲れ様でした』

 

「お疲れさまでした。勝てましたね」

 

『はい、よかったです。モッチさんの

援護があったからです』

 

いやいや、

 

耳元で爆速で聞こえる、キーを叩く音

あんなテクニック・・

 

ほぼプロなんだけど

 

「僕、すごい人と一緒に

やってるんだなって思いました。

ジウルさん・・やっぱり、

プロなんじゃないですか?」

 

『ぷ、プロとか、めっそうもないです、

全然、私なんて足元にもおよびません。

今回は、ホントにモッチさんが

いてくれたからです』

 

んーーーーー

 

 

 

“モッチさんがいてくれたから”・・ね

 

 

彼女を助けられるのは・・

全部、“俺”でいたかった。

 

もう、言っちゃおうかな

 









・・・いや、

 







いやいやいやいやいや

 

ダメだ。今回は、“こいつ”に

働いてもらわないと。

 

 

シナリオ通りに

 

 

「何かあったんですか?」

 

『え』

 

「なにか・・悩み事・・とか、

“彼氏さん”の事とかで」

 

『また、プレーに出てました?』

 

「はい」

 

100%嘘だけど

 

『んー、何が違うんだろう』

 

「あ、なんとなくですよ。

何もないならいいんです」

 

『・・いえ、何もない・・

訳ではないんです』

 

・・くるか

 

「どうしたんですか?」

 

『モッチさんは・・

彼女さんがいますか?』

 

 

 急に・・



*チーター:

ネットスラングで

チート(イカサマ・不正行為)をする人。

通報システムはある。