JIMIN >

 

「もう、全部?」

 

“俺”が知らない事になってる、

アレは、言うかな?

 

 

使った食器を洗う

彼女の腰元に手を伸ばす

 

「もう、俺に隠してる事はない?」

 

耳元で繰り返した。

 

さて・・

 

 

「・・あります」

 

くるか・・

 

「何?」

 

「私・・実は・・

“配信”してるんです」

 

やっと“モッチ”と並んだ。

 

「配信?」

 

「その・・メイク動画・・の」

 

「へー、知らなかった」

 

「だって、秘密でしたから」

 

「そっか。“秘密”だったのか」

 

「はい」

 

「見たい」

 

見てるけど

 

「・・ダメです」

 

「なんで?」

 

「恥ずかしすぎます」

 

「やだ、見る」

 

「ダメです」

 

「アカウント、教えて」

 

知ってるけど

 

「それは・・ダメです」

 

・・・。

 

「わかった・・検索しよう」

 

 

 

腕をほどいて、足を動かした。

 

 

「え!?あ、だ、ダメです、ジミンさん」

 

リビングのソファに置いていた

スマホを手にとった俺の所に

遅れて彼女が駆け寄る。

 

「メイク動画でしょ、

ジウヤの事だから、アカウントは、

自分の名前が入ってたりして」

「入ってません、一文字も

1mmも入ってません。

とにかく、ダメです。

もぅ、ジミンさん」

 

上に掲げたスマホに、

どうにか手を伸ばそうとする彼女は

それしか見てなかったから

 

 

 

「・・・・ダメ・・です」

 

 

「どうして?」

 

キスするのは簡単だった。

 

 

 

「だって・・もし、見られたら

次から・・意識してしまいます」

 

「何を?」

 

「カメラの向こうに・・

ジミンさんがいるって」

 

・・・・

 

「俺がいるって思ったら、

どうなるの?」

 

真っ赤な顔の彼女の

おでこに額を当てる

 

「・・たぶん、しゃべれなくなります。

いろんな気持ちが、ぐちゃぐちゃになって」

 

「ぐちゃぐちゃって」

 

「恥ずかしいのと、嬉しいのと、

寂しいのと・・」

 

・・・・。

 

 

「俺を思い出したら、寂しい?」

 

「会ってる時が、すごく

幸せだから・・だと思います。

すごく・・会いたくなります」

 

「俺が2人いたらよかったね」

 

「それは、気持ち悪いです」

 

「そーゆーとこは、

はっきり言うよね」

 

「え?」

 

「なんでもない・・わかった。

じゃあ、検索はやめる。

ジウヤがやってる事を

邪魔したくないし」

 

「邪魔とかじゃなくて、その」

 

「わかってるよ」

 

 

 

抱きしめなおした彼女の

背中を軽くたたく。

 

「ジミンさん」

 

いつのまにか、彼女の手も

ちゃんと背中に回っていた。

 

「ん?」

 

「覚えててくださいね」

 

「何を?」

 

 

急に

 

 

 

 

「努力しても努力しても、

足りない気がするって、

言ってたけど、でも、そうやって

努力し続けてくれたから、私は、

ジミンさんと出会えて・・

誰にも言えなかったモノ

半分こしてもらって・・

今・・ほんとにホントに幸せなんです。

ジミンさんがいてくれるだけで、

私は、幸せで、強くいられます」

 

 

 

・・・・。

 

「だから・・元気でいてくださいね」

 

彼女が言う“元気”は、

特別な意味をもつ。

 

今日も明日も、元気な身体で

次に進む場所を自分で考えて

自分で動ける、それは

すごく贅沢な事なんだ。

 

 

「・・・ん。わかった」

 

彼女を抱きしめる腕に力をいれる。

 

「ジウヤも。元気でいて。ちゃんと、

食べて、寝て、笑って、泣いて、怒って

・・・幸せでいて」

 

「・・・はい」

 

 

 

 

 

 

んーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・キスしたいけど、たぶん、

次したら、スイッチ入って

アプデ飛びそうだから、我慢する」

 

「・・・・・」

 

 

腕を緩めて見た彼女は、

口を結んで、

 

眉間に皺を寄せてた。

 

 

「どしたの?」

 

「いえ・・キスしたいのと・・

アプデが天秤に乗って」

 

ほんとに・・

 

「アプデが勝った?」

 

じっと、こっちを見た彼女が

 

 

 

 

「いえ・・キスが勝ちました」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、

 

 

くっと引き寄せられたと思ったら

軽く、触れた唇に

 

 

 

 

 

 

 

なんか・・カチって、音がした。

 

 

 

「まだ、夜じゃないけど」

 

「・・はい」

 

「スイッチ・・入れていい?」

 

「ダメって言ったら、

やめてくれますか?」

 

・・・・

 

 

「・・・ごめん、もう、入ってた」

 

 

また、唇を結んだ彼女は、

嬉しそうに笑った。

 

 



☆☆☆☆☆☆☆