JIMIN >

 


 

 

・・お姉さん?

 

見えたベッドの上にいたのは

ショートカットの女性だった。


 

寝てるの・・かな

 

 

目を閉じたまま、

 

それにしても、

 

その女性の周りは

クッションに囲まれていて

かけられた布団も、

なぜかボコボコと波打っていた。

 

 

布団の上に出されていた手には

 

何かが握られていて。

 

「ジミンさん」

 

 

俺の足が動いたのを確認して

彼女は、その女性にもう1度声をかけた。

 

「オンニ、私の彼氏さんだよ、

びっくりした?」

 

ベッドの上の女性の表情は動かない。

 

もしかして・・

 

「今年で、7年です」

 

俺の方は向かないまま、

彼女の手が優しく、女性の髪を撫でる。

 

「オンニが眠ってしまって、

7年になりました。あ、座ってください」

 

「・・・うん」

 

 

彼女の隣の丸椅子に腰を落とす。

 

ジウがゆっくり

左手に握らせていたモノを取って

自分の指を間に滑らせた。

 

「ジウヤ、あの」

 

俺が、目の前の女性が

ジウのお姉さんで

この状態が、いわゆる

“植物状態”だとわかっても、

実感が湧かなかったのは、

女性の“声”を聴いた事があったから。

 

彼女が泊まった日、

ふ、と目が覚めた。

 

隣を見ると、ジウがいなかったけど

時計を見ると、まだ5時過ぎだったから

トイレに行ったのかなと思ってた時、

 

音が聞こえた。

 

見ると、わずかに寝室のドアが

開いていて、ドアに近づけば近づくほど

その音は、言葉になって聞こえ始めて・・。

 

 

聞こえたのは

女性の声だった。

その後にジウの声が聞こえたから

 

 

こんな時間に、しかも、わざわざ

スピーカーにして電話してるのかなって

違和感はあったけど

 

 

聞き取れた言葉

 

“じゃあ、朝のかけ声”

 

女性の声にジウの声が重なる。

 

“昨日も負けなかった”

“明日も負けない”

“その為に今日を頑張れ”

“ふぁいてぃん”

 

楽しそうな音に、

その女性は友達か家族かとは思ったけど

 

“私はずっと、傍にいるから。

ずっと一緒にいる。

ジウヤは独りじゃない。忘れないで”

 

まるで、呪文でもかけるように

優しく響いた声に

 

“大丈夫だよ、オンニ。私、大切な人が

できたんだ”

 

オンニ・・

電話の相手はお姉さんだった。

 

大切な人・・

家族に俺の事を

伝えてくれたと思って

嬉しくて、ベッドに戻った。

 

 

でも、ジウが言う“オンニ”は、

7年間、眠り続けている。

 

じゃあ、あれは・・

 

 

・・・録音?

 

「どうして・・眠ったままなの?」

 

 

 

「事故でした。2015年の2月20日

横断歩道で、ちゃんと青信号になるのを

待っていた人達の中に、スリップした

車が突っ込んできて・・

その中にオンニもいたんです。

ソルラルで帰省してて、

実家から帰る途中でした。

病院に運ばれた時は、

すごく、危険な状態だったんですけど

オンニ、頑張ってくれて・・

心臓は動き始めたんです。でも

疲れちゃったのか・・ずっと、眠ったままで」

 

「事故・・」

 

「あ、でも、奇跡なんです。

ほんとだったら、長くても2年とかで

心臓とまっちゃうんですけど

オンニは・・まだ、生きてくれています。

だから・・・もう少しなのかなと思って。

もう少ししたら、目、開けて

くれるんじゃないかって」

 

ふと、思い出した。

 

昔、ジウが言っていた言葉。

 

“今日、感じた幸せは、

2度と感じる事はできない”

“明日が当たり前に来ると

思う事の方が怖いです”

 

何も知らないように笑う彼女は、

その時間が、急に止まる世界がある事を

知っていたから、

 

だから、

 

精一杯、その時間に感じた感情に

素直でいたんだ。

 

「ジミンさん」

 

「ん?」

 

「あの、オンニと握手

・・してくれませんか。オンニも

一緒に見たんです。バンタンの

デビューした日のステージ。

きっと、今、緊張してると思います。

あ、推しは、2PMのテギョンさん

なんですけど」

 

「もちろん、喜んで」

 

眠り続ける彼女の手は、

もっと冷たいと思っていたから

包まれた温かさに少し驚いて、

 

!!

 

ピクっと手が動いた気がした。

 

「ジウヤ、今」

 

「動きました?・・オンニ、やっぱり」

 

楽しそうに、女性に話しかける。

 

「アッパの時は、動かないのに。

やっぱり、アイドルだから?

アッパがいじけちゃうよ」

 

普通に話しかける彼女に

少し力が抜けた。

 

握った手に、気持ちを込める。

 

「始めまして。ジウさんと、

お付き合いさせていただいてます。

パク・ジミンです。

お会いできて光栄です」

 

 

 

「笑った」

 

ジウが楽しそうに答えた。

 

「ありがとうございます。

オンニ、すごく嬉しいみたいです」

 

「よかった」

 

「ほんとは、聞きたい事、

いっぱいあるんでしょうけど」

 

「聞きたい事?」

 

「はい、オンニ、私に彼氏ができたら、

いっぱい質問するって言ってたから」

 

「そっか・・えっと、名前」

 

「あ、ユイです。キム・ユイ」

 

「あ~、ユイさん。目が覚めたら、

なんでも聞いてください。

俺、嘘つけないんで、全部、答えますから」

 

「ほんとに答えるんですか?」

 

「もちろん。隠す事なんて1つもないし」

 

「ずっと、時間、とられるかもですよ」

 

「いいよ。何時間かかっても、

ちゃんと答える」

 

「忙しいのに」

 

「大切な彼女の家族に会えるのに。

忙しいとか理由にならないよ。

時間は、つくるもんだから」

 

「・・ありがとうございます

あ~・・テギョンさんの事も

聞かれるかも」

 

「先輩には・・どこまで

話していいか聞いとく」

 

俺の言葉に、楽しそうに笑ったジウ。

 

その奥に見えたユイさんの表情も、

やっぱり、笑顔に見えて、

 

なぜか、急に喉が熱くなった。