JIMIN >

 

 

あーーーーーーーーーー

 

・・・・しんどい・・

 

 

もう、ベッドに連れて行きたかったけど

 

正直、それも、もったいない気がした。

 

彼女との時間は限られてる。

 

いくら、明日が休みでも

 

これから会えなくなる時間の方が

確実に長い。

 

・・・・。

 

 

ちらついたのは、“元カレ”2人

 

今、隣にいるのは俺なんだし

別に焦る事もないのは

わかってるけど・・

 

2人の方が俺より

彼女の事を知ってる気がして・・

 

だから、抱き合うより

もっと、たくさん話して、

同じモノを食べて、

同じモノを見て、笑って・・。

 

彼女の事を知ってるって

自信を持ちたかった。

 

 

別のスイッチが入るから、

ゲームまではできないけど

 

あ、そうだ、

アレ渡すの忘れてた。

 

彼女が好きなキャラクター、

聞いた時には、

答えてもらえなかったけど

あのゲームの時、

使っているキャラクターは

まちがいなくお気に入りだろうから。

 

彼女用で、そのキャラクターの

マグカップを用意した。

 

・・いや、ダメか。

 

それを知ってるのは、

バーチャルの世界で

彼女と会っている“モッチ”だけだ。

 

たまたま、もらったって事にする?

 

あ、じゃあ、リボンはおかしいか

 

さりげなく、置いておいて・・

 

考え事しながらでも身体は動いて

気づいたら、髪まで乾かし終わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

マジか・・

 

 

 

 

 

リビングに戻ると

 

ソファに座っている彼女の頭が

カクンっと揺れていた。

 

その手にはビールの缶を持ったまま

 

 

・・しまった。

 

酒、飲みたいって言った時に

ちゃんと止めておけばよかった。

 

しかも、

 

テーブルに置かれていた

もう1本の缶を手に取る。

 

ちゃんと・・・飲み切ってる。

 

思わずため息をついてしまった。

 

そんなに時間あいてないけど・・

 

 

「ジウヤ」

 

「・・ん」

 

彼女の手から、ゆっくり

缶を抜いてテーブルに置く。

 

「眠たい?」

 

ゆっくり瞬きをしながら

 

「・・・はい」

 

・・・俺のバカ

 

これじゃ、話す事だって

できないまま・・

 

でも、

 

仕事で疲れてたのかな

 

「もう、寝ようか」

 

「・・ヤです」

 

 

 

 

「・・歯磨き・・します」

 

・・・・

 

「そうだね・・

歯磨きは、大事だ、うん・・」

 

ゆっくり、瞬きを繰り返す

彼女が嬉しそうに笑った。

 

・・可愛すぎる。

 

 

 

 

 

隣で歯磨きをしていた彼女が

先にうがいをしたから

歯ブラシをくわえたまま

タオルを手渡すと、

 

「ありがとうございます」

 

ぼんやり答えた彼女は口元を拭いて

留めていたヘアクリップを外す。

 

落ちて来た柔らかい髪を

落ち着かせるように軽く

左右に頭を振った。

 

動いてるけど

 

・・・ちゃんと眠そう。

 

 

うがいをして、

彼女の手を取って寝室へ向かう。

 

眠い時の子供の体温は上がるって

聞いた事があるけど

彼女の手も、その熱は持っていたから

 

わずかに残っていた、

邪念も姿を消した。

 

 

「・・ジミンさんは・・

寝ないんですか」

 

ベッドに横になった彼女の声に

 

「あ~、もう少ししたら寝るから、

先に寝てていいよ」

 

「先・・に」

 

「うん。おやすみ、ジウヤ」

 

消えた邪念を徹底的に鎮火させるには、

少し距離が必要だった。

 

「・・おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

戻ったリビングは静かすぎたから

音楽を流した。

 

 

 

もし、ここにujiさんがいたら、

なんて言われるか・・

 

でも、眠ってるジウを

起こしてまでとか

 

 

 

そんな事、できる訳ない・・

 

 

結果、ちゃんと目、みてないな

 

 

歯磨きしたけど・・

 

・・俺も、飲も

 

テーブルに残っていたビール缶を

両手に持ってキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・。

 

 

 

 

「ジミンさん・・」

 

 

びっくりした

 

 

缶に残っていたビールをシンクに

流している時だった。

 

流れる音楽で聞こえなかったのか

 

急に後ろで聞こえた声に

一瞬、止まった心臓が

ドクドクと打ちはじめた。

 

「何?どうした?」

 

振り返った俺の胸元に

こつんっとおでこをつけた彼女は

右手で、俺のTシャツを小さく握った。

 

 

「ジウヤ?」

 

「私・・私の事・・」

 

 

 

 

「・・飽きちゃいましたか?」

 

 

・・・・。

 

 

「そ・・んな訳ないでしょ」

 

急に

 

「じゃあ・・ど、して・・

ナニもしないんですか」

 

なにもって・・・

 

いや、眠いって

 

アレ・・嘘ばっかりです。

全然・・スイッチはいらない

 

“スイッチ”?

 

 

でも・・そうですよね・・考えてみれば

ラスベガスの人達は・・キレイでしたもんね

 

 

ん?

 

ブツブツと話しだした

彼女の声は、小さかったけど、

いじけているのがよくわかった。

 

 

私が・・スイッチとか

押せる訳ないんですよ

 

「ジウヤ」

 

あんなに胸も大きくないし、ウエストだって

キムチもないのに、どうして太らないんですかね

 

「ジウヤ」

 

あーゆードレスってどこで

「ジウヤ」

 

彼女の頬を両手で挟んで

上を向かせた。

 

「手・・放してください」

 

「誘ってたの?」

 

結ばれた口が証拠だった。

動いた視線は、ちゃんとそれた。

 

 

「じゃあ、なんで、飲んだの?」

 

眠くなるのわかってるのに

 

「・・恥ずかしすぎて」

 

「俺が、飽きたって?」

 

「だって・・バスタオルで出ても

Tシャツ1枚で出ても、全然、

反応変わんないし・・私が、

処女だったから、その、反応

・・なさすぎて。もう・・

したくないのかなって」

 

また、

「何、読んだの?」

 

1度、結ばれた口が動いた。

 

「“勉強”・・したんです」

 

「なんで?」

 

ほんと

 

「・・ジミンさんと・・ちゃんと

2回目・・したくて」

 

戻って来た視線は

一瞬、俺の口元に移った。

 

「ダメ・・ですか」

 

かわいすぎる。

 

「ダメなんて、言う訳ないでしょ」

 

「じ、じゃあ」

 

 

 

 

「これでも、色々考えてたのに」

 

「何をですか?」

 

「会えなくなるから、いっぱい

話して、ジウヤの事、もっと

知りたいって。だから

必死で・・我慢してたのに」

 

「あぁ・・え・・と

じゃあ・・しながら話しましょう」

 

・・・・。

 

「できるの?」

 

「・・たぶん」

 

「俺は、無理だと思うけど」

 

「・・そう、ですかね」

 

「うん・・そんな余裕、ないと思う」

 

「余裕・・」

 

「ジウヤ」

 

「はい?」

 

 

息を吐いて、

彼女のおでこに額を合わせる。

 

 

「・・もう、正直に言うけど・・」

 

 

「はい?」

 

「前は・・ちょっと」

 

「・・ちょっと?」

 

顔を離すと、

次の言葉を待つジウは

ちゃんと、俺の方を見ていた。

 

「いや、だいぶ・・」

 

「だいぶ」

 

「我慢した」

 

「我慢した・・我慢?」

 

俺の言葉をなぞるけど

ちゃんと、キョトンとしてる。

 

まぁ、最後までシテるのに

『我慢した』は、わかんないか

 

 

「今日は、言ってあげられない」

 

「何をですか?」

 

 

「“嫌だったら途中でやめる”って・・

もう、無理だから」

 

 

 

「嫌とか、口が裂けても

言いません」

 

「口が裂けるぐらいなら

我慢せずに言っていいよ」

 

「大丈夫です。言いません」

「言えたらね」

 

「え?」

 

彼女の腰元に滑らせた手で

近づけた身体は、柔らかく

俺の腕の中に納まる。

 

「そんな言葉、言わせないから・・

なに?」

 

なぜか、嬉しそうな顔をした。

 

「もしかして、私、

スイッチ・・押せたんですか」

 

・・・・

 

彼女の右耳に指を滑らせると

連動するように

右目が軽く閉じられた。

 

・・

 

これ、

 

マジで今日無理だ。

 

「ジミンさ」

「おしゃべり終わり」

 

 

あんなに大事にしたいって

思ってたのに

 

1度重ねた唇を少しだけ離したけど

 

「手は、どこに置くの?」

 

喋れば、わずかに上唇が触れ合う。

 

「手は・・」

 

教えられた事を確認するように

ゆっくりと

彼女の腕が首元に回る。

 

「口は?」

 

 

彼女の唇が、素直に開いた。

 


閉じられていた彼女の瞼に

一瞬、力が入ったのがわかって・・

 

 

 

“みんな、彼女が欲しくなる”

 

Ujiさんの声が聞こえた。

 

 

みんな・・って

 

 

ダメだよ。

 

深くなるキスに、腰元から

逆撫でされるように電気が走る。

 

ジウは、誰にも渡さない。

 

“世の中の汚いモノなんて

何一つ知らないように笑う

その笑顔を、独り占めしたいって思う”

 

その笑顔も・・。

 

キスの合間で見えた彼女の表情は

少し苦しそうだった。

 

その笑顔が崩れる瞬間も

 

 

全部、 

俺のモノ。

 

 

その笑顔を崩すのは

 

 

 

 

 

 

・・・俺だけでいい。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆