「たしかに・・話、終わっちゃうね」

 

 返事、それか

 

 

斜面に建つ住宅街、

僕の家のすぐ横の階段を

上り切った先にある公園は、結構穴場で

時間がずれれば、誰も来ない。

1つしかないベンチに座って見る

自分以外の時間が

止まっているような朝の風景や、

見下ろした街並みの先に沈む夕日や

暗闇の中、星が落ちたのかと思えるほど

光る人工的な明かりの数に

しんどい事も忘れられた。

 

でも、この場所は、僕だけじゃなくて

彼女の場所でもあった。

ここにいる時は、

お互い、しんどい事があった時。

 

だから、ここにいると思った。

 

「・・6月、大丈夫?」

 

 

「・・あと3か月あるし、・・大丈夫だよ」

 

「・・なら、いいけど」

 

 

 

 

 

「もし・・」

 

「ん」

 

「もし、私が、途中で泣きだしても

感動してるだけだから」

 

「・・・兄さんの結婚式に?」

 

「ジン兄の結婚式だからだよ。きっと・・

幸せな1日になるよ」

 

 

 

僕が5歳で、ジン兄さんが8歳の時、

隣に引っ越してきた同い年の彼女は、

人見知りで、なかなか友達が

できなくて・・よく、泣いていた。

 

“ずっと、友達だから”

 

そんな呪いの言葉を言ったのは・・

その言葉に、彼女が嬉しそうに笑うって

わかったから。

 

僕の言葉がなくても

友達に囲まれるようになった彼女の視線が

わかったのは、中学2年生の時。

 

高校生のジン兄さんに・・恋をしていた。

 

頭がよくて、運動神経もよくて

優しいし・・イケメンだし。

 

でも、あの親父ギャグが増長したのは、

彼女が、全部、笑ってたから。

 

みんなにウケるって勘違いした。

 

大学に入って、家を出た兄さんが

こっちに、帰ってくる事がわかると、

彼女は、必ず、美容室に行って、

キレイなストレートになってくる。

 

昔、兄さんが、1度だけ、

髪を触って褒めたから。

 

いつのまにか、彼女のしんどい事は

全部、兄さんが絡むようになって。

必然的に、僕が、

それを慰める事になって・・

 

 

そんな兄さんの結婚が6月に決まった。

 

 

ずっと、あのテンションで

話されたんだろうな

 

 

母さんの朝の電話の相手は

彼女だった。 

 

でも、それを聞いて・・

 

ここにいると思った。

 

 

彼女が言った言葉を繰り返しても

僕の気持ちは気づかれない。

それでも・・

 

「ありがとね」

 

「・・・別に」

 

「テツがいてくれてよかった」

 

・・・・。

 

肩に回した腕を振りほどく事もない。

倒れた身体は、僕の右肩に

居場所をみつける。

 

さっきから、握ってる手だって、そのまま

 

 

 

「“友達”だからな」

 

 

終わらせたい関係を

終わらせられないのは

 

彼女の体温を感じる距離に近づくために

必要なモノだから。

 

もし、気持ちを伝えて

この距離が離れるくらいなら

「最高の友達ね」

 

 

 

 

 

 

・・・・やっぱり、嫌だ。

 

「・・・新しいのが浮かんだ」

 

「お、ホント!?」

 

ガバっと身体を起こした彼女の目が

わくわくしていたのがわかったから

思わず口元が緩んだ。

 

「・・長い片思いが実る話」

 

俺の言葉に眉間に皺を寄せる。

 

「いや、普通に、今まで書いてるモノと

変わんないじゃん。恋愛小説家なんだから」

 

「次は・・違うよ」

 

「いつまでに書くの?」

 

「・・兄さんの結婚式の前に」

 

「・・そっか。楽しみ」

 

僕の書く物語を

1番、楽しみにしてるのは自分だと

言い切ってくれた彼女が

近づく6月に苦しむ事がないように

してあげたかった。

 

最高に幸せな物語を創る。

 

彼女の笑顔が見れるように。

 

それが、できたら・・

 

・・・・

 

「今、タイトルも決まった」

 

「え、何?教えてよ」

 

「企業秘密」

 

「ケチ」

 

「帰ろう、お腹すいた。

朝、コーヒーしか飲んでない」

 

「あ、じゃあ、私、おごってあげるよ。

5000円、持ってるし。

どこかの誰かさんみたいにケチじゃないし」

 

「記憶が正しければ、それは、

僕があげたモノだと思うけど」

 

「タイトル、教えてくれたら」

 

「嫌だよ」

 

 

「じゃあ、ヒント、最初の言葉だけ」

 

・・・・。

 

「おごってくれるの?」

 

「ん~・・しょうがない。いいでしょう」

 

「じゃあ・・最初の1文字は・・F」

 

「F?英語って事?」

 

「さぁ~」

 

頭に浮かんだタイトルは、もう、

物語を動かし始めた。

 

長い片思いを終わらせる。

 

物語のタイトルは

 

 

 

 

【FRI(END)S】

 

 

fin.