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「・・行くぞ」

 

!?

 

 

ふいに、とられた左手は

スホの大きな手に包まれた。

 

あったかくはなったけど・・

 

 

スホの手が大きいからか

私の手が小さいからか

 

握られたというより・・

 

スホの手と私の手の間には

まだ、隙間があった。

 

それでも、さっきよりは

近づいた体温。

 

見上げたスホは、

前を見たままだったけど

 

歩きやすくなったのは

スピードが落ちたから。

私に合わせてくれるみたいに。

 

 

 

「あの日は・・」

 

 

 

 

 

「お前の返事

もらえたからそれでいい」

 

・・・・。

 

 

スホが、すごく

頑張ってくれてる。

 

 

頑張って、自分の気持ちを

言葉にしてくれてる。

 

それがわかって

身体の中がフワフワした。

 

 

スホの隣を、

『彼女』として歩いてる私に

 

包まれた手の中の少し開いた隙間は

いらないと思った。

 

キュッと握り返すと、

 

 

 

 

しばらくして

 

私の指の間に

スホの指が滑り込んで

にぎり直された手は

ピッタリくっついた。

 

 

・・・『恋人つなぎ』だ

 

 

だめだ

 

また、スホに

気持ち悪いって言われる。

 

それでも、どうしても

口元が緩んでしまった。

 

スホと手を繋いで歩く。

 

それを嬉しいと思えた事に

 

 

 

ホッとした。

 

あ、引っ越しの事・・

 

 

 

まあ、・・後からでもいいか

 

あれだけ話してほしいとか

思ってたくせに

今は、体温だけを感じる

この時間が続いてほしかった。

 

いつもの“無表情”のスホ

 

でも、私にはわかる。

 

顔見たら、スホが何を

思っているかわかるのに。

 

 

 

 

 

 

 

横断歩道で青信号になるのを

みんな、ちゃんと足を止めて、

並んで待っていた。

 

「ジウヤ」

 

「ん?」

 

「俺、来週から、実習入るから」

 

「・・いつまで?」

 

「4月末」

 

・・そ、か、会えなくなるのか

 

 

 

 

 

 

「・・できるだけするから」

 

「何を?」

 

「連絡」

 

 

 

 

「・・うん、わかった。

私も、連絡するね」

 

「ん」

 

大丈夫。うまくいく。

 

「スホヤ、見て。

月がキレイに見える」

 

雲に隠される事なく見えた月は、

高層ビルの光にも負けずに輝く。

 

 

「あぁ・・そうだな」

 

明日も、月が見れたらいいな。

 

明日も、同じ気持ちで

いれたらいいな。

 

 

 

どうか・・

 

 

 

悲しい事が

起きませんように。

 

 

 

青信号に変わったのがわかって

月から降ろした視線は

こっちを見ていた

スホの視線とぶつかった。

 

「・・何?」

 

 

「別に」

 

 

前を向きなおって

歩くスホは

 

 

「なんで笑ったの?」

 

私の言葉に

 

「笑ってねーよ」

 

そう言いながら

左手で口元を覆った。

まるで、私から隠すように。

 

 

「笑ったよ」

 

隠してもダメだよ。

私には、わかるんだから。

 

・・私だけなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪」

 

・・・・もう、言い方。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆