【22:15】

 

すず

 

あっ、

 

玄関で電子錠が開く音がした。

 

「(すみません、遅くなりました)」

 

息をきらして、ユンギが入って来た

リビングには私と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パパが待っていた。

 

 

 

 

 

9月に入籍をした事を伝えて

連絡が来たのは先週。

ユンギと一緒に会いたいと。

 

今日が早く帰って来れる事を

伝えると、こっちに

都合を合わせると言って・・

 

でも、うちに来てからも

ほとんど話せてなかった。

 

 

 

 

 

一花さんの事件があってから、

パパは、結婚に反対した。

 

7月、日本のコンサートの

最終が福岡だったから

2人で会いに行ったけど

・・話は聞いてもらえないまま。

 

それからも、

何度も連絡したけど

返事は変わらなかった。

 

パパの気持ちは痛いほど

わかった。自分の手の

届かない所で、また、

誰かがいなくなるんじゃないか

 

とても、怖がっている事も。

 

そんな中で初めて

パパの方からきた連絡。

 

私達と向き合ったパパは、しばらく

黙ったままだったけど

 

「・・(私の負けだ)」

 

 

負け?

 

 

「すず、韓国語で大丈夫か」

 

頷いたけど、変な感じだった。

 

「(さやかまで夢に出て来たよ)」

 

ママ?

 

「(“また間違ってる”と)」

 

・・・・。

 

私と同じ目の病気だったママは

目の事でどうしてもママを

束縛してしまっていたパパに

耐えられずに私を連れて家を出た。

 

私は離婚したと思ってたけど

実際は別居で。

だから、福岡にいるはずの

パパが、神戸の病院に

すぐに来れた。交通事故で

逝ってしまったママの傍に、

私の傍にいてくれた。

 

「ママが?」

 

「(私が信頼する努力をして

ないという意味だろう)」

 

 

「ユンギ君」

 

「(はい)」

 

「(君の仲間からの

メッセージを観たよ)」

 

メッセージ・・

 

見合ったユンギも

何の事を言ってるのか

わかっていない様子だった。

 

それは、パパにも

伝わったのか・・

 

「(そうか・・お前達には

知らせてなかったのか・・

じゃあ、見た方が早いんじゃないか)」

 

何?

 

パパがテーブルに出したのは

1枚のディスクだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ジョングギか・・)」

 

エンドロールには

“G.C.F”の文字

 

でも、それも

涙で、完全に揺らいでいた。

 

「(佐々木一花さんからの

手紙もついていたよ・・

これは、後で読め。

もう、泣き止めなくなる)」

 

テレビで流れたのは

あの旅行の時間。

始まって早々、

 

車の中で

ユンギにキンパを

食べさせる私が写っていた。

 

着いてすぐにプールに

文句を言ってたり

ユンギと手を繋いで

散歩に行ったり

 

BBQも

 

バスケも

 

結婚式の“練習”も

 

花火も

 

みんなとの時間が

優しく流れた。

 

「(初めて見たよ。こっちで、

お前がこんなに幸せそうに

笑ってる姿。そうしてくれるのは、

ユンギ君やこの人達なんだな)」

 

言葉が出なくて頷くしか

できなかった。

 


 

「(君を・・信じていいか)」

 

「(はい)」

 

「(早いな)」

 

「(その返事しかできないので)」

 

「・・(私の事で、言われる事が

増えてきているんじゃないか)」

 

私達の結婚は互いの会社の

利益の為の結婚だと揶揄

されていた。

 

「(そんなの、なんて事ないです。

僕はスズさんの事が守れれば)」

 

「(それは、私も一緒だ)」

 

・・え・・と

 

「(ここまできたら、利用して

いいと思います)」

 

「・・(何か聞いたのか?)」

 

「(いえ、そう思っただけです)」

 

え・・と・・何の話?

 

 

「パパ・・」

 

「ん?」

 

「(結果的に・・パパは

味方になってくれるって事?)」

 

「・・なんか、すずと韓国語で

話すのは変な感じだな・・

(すずの味方でいる事は、

死ぬまで変わらない。ただ、

パパの手だけで守ろうと

するのを止めるだけだ。

お前の周りには、こんなに

たくさんの人達がいてくれる。

ただ、約束してほしい)」

 

「(・・何?)」

 

「(パパが、一緒にゴハンに

行くと言ったら、ちゃんと行く事)」

 

・・・・・。

 

 

「(パパが欲しいモノがないかと

聞いた時は必ず、答える事)」

 

・・・・。

 

「(パパのラインは既読スルー

はしない事)」

 

・・・・。

 

「それから・・」

 

まだあるの?

 

「(ユンギ君と夫婦喧嘩したら

必ず日本に帰って来る事。

ユンギ君が迎えに来るまでは

帰らない事)」

 

「パパ」

 

「(それから、結婚式は日本でも挙げてもらう。

これには、少し付き合いが入るが

それは理解してくれ。ユンギ君も、

そこは我慢してほしい)」

 

「(大丈夫です。話し合いを

始めます)」

 

「(そうか・・。じゃあ

今日は、ここに泊まる)」

 

「(え!?さっき、ホテル

とってるって)」

 

「(気が変わった。こういう時は

決まってるんだ。なあ、ユンギ君)」

 

「(何から飲みますか)」

 

「(飲むの!?ユンギ明日は?)」

 

「(明日より、今日が大事だ

焼酎でいいですか?)」

 

いや、明日でしょ

 

「(そうだな。それからもらうか)」

 

・・えぇぇぇぇ

 

めんどくさい事になりそう・・

 

ユンギは、すぐに

キッチンに向かった。

 

「あぁ・・そういえば、その、

映像を作ったジョングク君は、

知り合いが日本にいるのか?」

 

急に、日本語に戻ったから

また、変な感じがした。


「なんで?」

 

「いや、今度、業務提携した会社が

あるんだが、そこのスタッフの人が

彼の事を知っているようで、この映像を

観たいと言って。まぁ、ホントに

知り合いみたいだったから見せたけど」

 

「え!?そんな、違ったらどうするのよ」

 

「いや、ちゃんと証拠もあったし」


証拠って


「でも・・なんかすごく・・下に見てたぞ。

映像を見た時も、“小学生にしては

まぁまぁだ”って言ってたぐらい」

 

「名前は?」

 

「あ~、植村・・植村・・

あっ、植村杏さんだったな

・・最近、名前が出てこない」

 

「ウエムラ・・どっかで聞いたような

・・わかった聞いてみる。

ウエムラ アンさん、ね」

 

 

 

 

 

「スズ、はい」

 

ユンギに促されて

グラスを持った。

 

「じゃぁ」

 

(乾杯)

 

 

 

 

 

~・~・~・~

 

 

 

 

 

3時間後、やっぱり

2人とも

めんどくさい事になったけど

 

 

カトクの画面を開く

 

彼女組

 

・・リアンさん、抜けたけど

 

 

指を動かした。

 

 

『ありがとう。幸せな夜になったよ』

 

かみ合わない会話で

楽しそうに笑い合ってる

2人の写真を撮って

 

一緒に送った。