「スホヤ」

 

「ヌナ・・・え?チャン先生」

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

「今日、たまたま病棟で会って

スホヤの話になって」

 

「大変だったな・・大丈夫か」

 

「あ、はい。結構話せる時間も

残ってたし・・大丈夫です。

今日はすみません。・・わざわざ、

ありがとうございます」

 

「・・いや、後で、少し話せるか?」

 

 

「はい」

 

 

 

 

「スホヤ?」

 

「あ、」

 

「オンニ、お久しぶりです」

 

「テリヤ、久しぶりね。ありがとう、

来てくれて。・・えっと」

 

「あっ、俺の実習先で指導医だった

チャン先生。ヌナと同じ病院で

わざわざ来てくれたんだ」

 

「まあ、そうだったんですか。

スホの伯母のイ・ミンソです。

スホがお世話になった上に、

足を運んでいただき

ありがとうございます」

 

「あ、いえ。今日はちょうど

当直明けで。それに、彼と

話したい事もあったので」

 

「あっ、じゃあ、今、どうぞ」

 

「いや、でも」

 

「スホヤ、疲れてる中

来ていただいたのだから、

お時間をとらせたらダメよ。

私がここにいるから、

先生とお話してきて」

 

「わかった。じゃあ・・」

 

 

「あっ、先生」

 

「はい?」

 

「スホは、いい医者に

なれますか?・・・弟が

最期まで気にしていたので」

 

・・・。

 

 

「・・“いい医者”の意味合い

にもよりますけど、俺の事を

“いい医者”だと彼自身が思ってるなら

大丈夫だと思います。どうも、

俺の事を尊敬してるみたいなんで」

 

隣で小さくヌナが笑った。

 

・・・。

 

「そうですか、スホは

いい先生と出会えたのね。

よかった。先生、ホントに

ありがとうございました」

 

「あ、私は奥手伝ってくるから。

ユジョンイは奥にいるの?」

 

「うん」

 

 

 

~・~・~・~

 

外の駐車場まで出た先生が

こっちに向き直った。

 

「あんまり、場所離れるのも

アレだろ。手短に話す」

 

「もしかして、ジアさんの事

ですか?」

 

「あぁ・・その、あいつに

言われたんだ」

 

「あいつ・・あぁ、リュ先生」

 

「この結果がわかってるのに

近づけすぎだ。あの子達が

耐えられなかったら

どうするんだって」

 

「・・・怒られたんですか」

 

「俺だけじゃねーぞ。ちゃんと

シンも道連れだ。でも、別に

間違った事をさせた訳じゃない

とは思ったけど・・まぁ、」

 

「・・いえ、俺もやって

よかったと思います。色々な事と

向き合えたし・・」

 

「そうか・・でも、現場は、

あの繰り返しだと思え。

しかも、泣いてる暇はない。

お前が進もうとしてる道は、

そんな道だ」

 

「・・はい。・・それでも進みます」

 

「ならいい。・・これで

明日、あいつに言い返せる」

 

「100倍になって

返ってきそうですけど」

 

「・・・・だな」

 

「・・それに、アボジとも

約束したんで。それも

守らないといけないし」

 

「何を?」

 

「就職したら、病院食を

試食しないと。患者の食欲が

ないのは、それが原因に

なるかもしれないので。

医者になって確かめます」

 

「・・いいとこつくな。

お前の親父さん」

 

「・・自慢の父親ですから」

 

「・・イ・スホ」

 

「はい」

 

「今日の事も忘れるな。

家族を失うという事。それ以外でも

辛い事や悲しい事、全て忘れるな。

そのせいで、キツイ時もくるけど、

その痛みは、全てお前の武器になる。

経験したモノにしかわからない

共感する力になる。患者や

家族の傍に行くのに1番必要な力だ。

・・俺の見立ては外れた事はない。

お前はどんな記憶でも武器に

変えられる」

 

どんな記憶でも、武器に。

 

「・・俺ってやっぱり

イイ事言うよな」

 

・・・・。

 

「なんで、彼女

できないんですか」

 

「2度も言わせんな。

できないんじゃねーの

つくらないんだよ」

 

 

「そうでしたね。

覚えときます・・何ですか」

 

「いや、お前、“ちゃんと”

笑えんだな」

 

・・・。

 

「一応、人間なんで」

 

俺の言葉に

楽しそうに、また笑いながら

 

「じゃあな。頑張れよ」

 

 背中を向けて歩き出した。


「はい、ありがとう

ございました」

 

あの日と同じように

しっかりとお辞儀をした。

 

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