「俺が口が堅いのは知ってるだろ?

なにがあった?」

 

 

 

 

大きく息を吐いた。

 

「・・ジウと別れた」

 

 

 

 

「・・そうか。優しそうな子

だったけどな。原因は?

お前にあるのか?」

 

「・・あぁ~・・俺が全部悪い

って言ったら、違うって言われた」

 

「まあ、2人の事だからな。

離れる時は、どちらにもあるよな。

でも、それを自分で言えるって、

やっぱりいい子だな。全部、

お前のせいにしたら楽だろうに」

 

「・・俺もそう思う」

 

 

持っていたペットボトル、

ラベルについた水滴を

親指で拭う。

 

昨日の事は

なぜか記憶として残っていた。

 

それだけ【俺】も忘れたく

なかったのかもしれない。

 

 

 

“スホヤがいなくなる”

 

そう言って、泣いてくれていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・まだ、あるのか」

 

!?

 

「・・俺、なんかした?」

 

 

 

 

 

楽しそうだな。

 

「今のは勘だ」

 

「・・なんだよ」

 

「でも、なにかあるのはわかった」

 

 

一瞬、迷ったけど

 

本当は話したがってる“サイン”が

出たんだ。

 

言葉は止めなかった。

 

 

 

「俺にも“症状”が出た」

 

ここまでは読めないよな。

 

横目で見たアボジは、右手で

目元を隠して大きく息をついた。

 

 

「・・・どんな“症状”だ」

 

「・・たぶん、解離性の障害。

診断受けた訳じゃないけど、

間違ってはないと思う。

俺の中に別の人格が造られてる」

 

「・・・いつから」

 

「自覚しだしたのは最近だよ。

それが、いつからだったのかは

わからないけど」

 

「生活に支障が出てるのか?

・・実習、行けるのか?」

 

 

 

「大きな障害は出てない。

アボジから見ても、なかっただろ?」

 

左右に視線を動かすのは

最近の俺の様子を辿ってるんだろう。

 

「・・そうだな。特に

気になるような事はなかった。

何かあれば、気付かないはずない」

 

・・特にアボジはね。

 

「実習には行くよ。わからないけど、

もし、何かあったら、すぐに辞める。

・・でも、なんとなくだけど」

 

ジウの言葉。

 

「ずっと、俺を守ってきたらしいから。

たぶん、大丈夫だと思う。

実習、終わったら、1度、受診するよ」

 

・・・・。

 

苦しそうな、悔しそうな表情。

 

「スホヤ、」

「俺は、大丈夫だから。アボジが

後悔したとしても、この身体と

付き合うのは俺だから。だから、

・・・アボジは自分の事考えて。

・・・桜、一緒に見よう」

 

俺の言葉に強く口を結んだ。

 

 

 

少しして、何度か頷いた。

 

「わかった。そうだな。

・・うん、そうだ。まずは、

お前が無事に実習を終わらせる事と

・・・スホヤ、何かあったら、

すぐ連絡するんだ。動けるようには

しとくから。・・って、その為には

俺も負ける訳にはいかないな。

桜も見ないといけないし、

スホヤが医者になるのも

見届けないといけないしな」

 

 

「ん」

 

 

冷たい空気を吸った時より

身体の中がクリアになった

気がした。

 

話したいと思った時に

話せた。

 

「アボジ、帰ろう」

 

立ち上がって、声をかけると

 

今度は、腰を上げたアボジが

 

「スホヤ」

 

 

 

「何?」

 

優しく笑った。

 

「お前は、やっぱり、

自慢の息子だ。忘れるな、

お前もたくさんの人に愛されてる。

独りじゃない。お前が

いてくれるだけで、俺も

ユジョンイも幸せだ。

お前がいてくれなきゃ、困るんだ。

どんなお前でも・・

いてくれなきゃ困るんだ」

 

・・・・・。

 

そう言えば、ハルモニも、

そう言ってくれていた。

俺は、ここにいていいって。

 

他人からもらわなくても、

最初から居場所はあった。

 

見えなくなっていただけで。

 

疲れたら、そこに、帰ればいい。

 

「・・ありがとう、アボジ」

 

 

 

俺の居場所は・・消えない。