10月28日(水)【22:14】

 

 

『おかえり、オッパ』

 

・・・・。

 

「あ~」

 

『何?』

 

「声が聞きたいって思ってたけど」

 

『うん?』

 

「それどころじゃなくなった。」

 

『何のこと?』

 

「ユジョンア~」

 

『私も会いたい』

 

・・・・。

 

俺、なんで、家にいるんだ

 

もう、

 

 

罰ゲームだ。

 

でも、なんとなく声が・・

 

「なんかあったのか?」

 

 

 

 

 

『ん~・・最近、アッパ、

ごはんがあんまり入らなくて。

今日、点滴しに行ったんだ。』

 

点滴・・。

病院、付き添ったのか。

 

「・・そうか、今は?」

 

『今は、大丈夫。病院から

帰ってきたら調子がいいよ。

やっぱり点滴だけでも

違うんだろうね。』

 

「よかった・・」

 

『ん』

 

・・・。

 

「ユジョンアは大丈夫か?」

 

 

 

 

 

『・・オッパ、

疲れてるんじゃない?』

 

「ユジョンアの話以上に

大事な事はない」

 

 

 

少しの間の後

聞こえた声は、少しずつ震えだした。

 

『ちょっと・・自信なくなった。

アッパを独りにしたくないのに。

・・すごく・・怖くて』

 

 

 

・・・・ホントに

 

俺、なんで、ここにいるんだ。

 

「ユジョンア」

 

『・・ん』

 

「スホは?」

 

確か、11月から、

また実習が始まるって

 

『いるけど・・ちょっと

・・ケンカして、それから、

上手く話せてないの・・。

私が悪いんだけど・・それに、

実習前に、私がこんな風に

なってるってわかったら

また、心配させちゃうから

余計、話せなくて。』

 

「・・実習、何日から?」

 

『んと、16日から、2カ月。』

 

2カ月か・・

 

来月からユンギヒョンが

肩の手術も含めて療養期間に入る。

 

それでも、

スケジュールが減る訳じゃない。

 

年末に向けてはもっと忙しくなる。

 

『オッパ』

 

「ん?」

 

『また、海外行く予定あるの?』

 

「あ~、海外は・・ユンギヒョンの

療養もあるし、来年1月までは

特に入ってないよ。」

 

『そっか・・じゃあ、大丈夫』

 

「大丈夫?」

 

耳元でふぅっと大きく息をついた。

 

『ん。オッパが同じ時間の中に

いてくれるだけで安心できる。』

 

・・・・。

 

「俺が2人いたらな・・」

 

『2人?オッパが?』

 

「そう、2人いたら、1日だけ

もう1人の俺に任せて、その日俺は、

ユジョンアの傍に行けるのに。」

 

『・・・』

 

「いや、待てよ。それは、それで

危ないな。」

 

『・・一応、聞くけど、

今、オッパが考えてる、

もう1人のオッパは・・

何かのポケットから

出してもらったヤツ?』

 

「そう、鼻の先のボタンを押したら

俺そっくりのロボットができるヤツ」

 

『・・それの何が危ないの?』

 

「ユジョンア、AIは自己学習能力が

あってな。姿形だけじゃなくて、

思考や感情まで真似る・・

というか徐々にオリジナルの

アイデンティティを確立させて

いくんだ。」

 

『AIのアイデンティティ・・』

 

「でも、ベースは俺だろ?

そしたら、そいつも、ユジョンアに

会いたがって・・俺、俺とキスしてる

ユジョンアを見るかも・・」

 

 

また、耳元で大きな息が聞こえた。

 

『・・よくわかんないけど、

ニセモノは、ちゃんと

お断りするから』

 

「いや、ニセモノって言っても

未来の道具だぞ?絶対、

見分けつかないって。」

 

『未来の道具でもなんでも、

目の前のオッパがホンモノか

ニセモノかは、わかるよ。』

 

・・・・。

 

『ねぇ、・・もし、逆なら?』

 

「逆?」

 

『もし、オッパの前に私の形をした

ニセモノが来たらオッパはわかる?』

 

 

 

 

 

 

「・・わかる。」

 

『ホントに?私と同じなんだよ。

表情も仕草も声も温度も。』

 

「わかるよ。」

 

『どうやって見分けるの?』

 

「あ~・・名前を聞く。

聞いた時の反応でわかる。」

 

もう、数えきれない程

繰り返してきた1番の“言葉”。

 

その度に見せてくれた

たくさんの表情。

 

きっと、ニセモノは

表現できない。

 

『・・へんなの。あっ、でも

友達は、私が我慢して“大丈夫”って

言ってる時はわかるんだって。

そういうこと?』

 

‥‥“大丈夫”の言い方

 

 

「・・そういう事」

 

楽しそうな声が聞こえた。

 

『オッパは、“大丈夫”じゃ

わかんないんだね』

 

・・・。

 

「ばれたか。俺には

“大丈夫じゃない”って

言ってもらえたら助かる。

今度、会ったら、こっそり

聞かなきゃな」

 

『え?』

 

「嫌か?彼氏、紹介するの」

 

『・・う、ううん。

いつか・・紹介するよ。』

 

見えないけど

彼女が笑ってる。

 

よかった。

 

「・・ユジョンア」

 

『ん?』

 

「スホとは話せそうか?」

 

『・・うん、実習前には、

ちゃんと話して。スホが勉強に

集中できるようにするよ・・

あっ、アッパが呼んでる。

ちょっと、行ってくる。

じゃあね、オッパ。

疲れてるのに、ごめんね』

 

「ユジョンア」

 

『・・ありがと。愛してるよ。』

 

「ああ、俺も愛してる。」

 

 

切れた通話。

少し熱を持った画面をなぞる。

 

 

 

これから

彼女を待つ時間を

考えれば考えるほど

胸が苦しくなるぐらい。

泣きたくなるぐらい。

 

・・俺が泣いたところで

彼女のつらさが減るわけじゃない

 

だから余計に、

 

愛しさが募った。

 

ずっと、

笑顔でいてほしいのに。

 

 

 

 

 

 

カトクの通知が光った。

 

ユジョン?

 

 

『オッパのニセモノを

見分ける方法』

 

その下に添付された

アニメの画像

 

 

 

『鼻の頭が赤いのが

ニセモノ』

 

・・・。

 

 

「なるほど」

 

・・・・。

 

思わず緩んだ口元を押さえた。

 

笑顔にしたいのは

こっちなのに。

 

 

ユジョンの

喜ぶ顔が見たい。