「もう・・・いいよ。」

 

「スホヤ」

 

 

“おまえなら大丈夫だ”

 

シホの声が聞こえて

 

少し、心臓が強く鳴った。

 

 

 

こんな夜は来ないと思っていたから

もう、そのままにしておこうと思っていた。

 

俺が、年をとって、いつか何もかもを

忘れてしまうまで

話したくても話せなくなるまで

口を閉じてればいい。

 

俺が我慢してればいい。

 

その為には

「俺」を忘れなきゃ

失くさなきゃ

いつか、話してしまうかもしれない。

 

怖かった。

 

“また”ユジョンが

いなくなってしまったら・・・。

 

独りになるぐらいなら

自分を失くす方がいい。

 

そう思ってきたのに。

 

 

 

 

俺も・・

ずっと独りじゃなかった事、

手を伸ばせば、独りにならない

事を知ってから

 

聞いてみたかった。

 

俺が覚えている事は真実なのか・・

 

まっすぐ視線を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、・・その“フリ”はいい。」

 

開かれた目。

 

「俺は、全部知ってるから。」

 

「スホ、」

「ただ教えてほしい。俺が知っている事は

真実なのか。教えてくれたら、

・・・・それでいい。」

 

 

結ばれた唇から力が抜けたのがわかった。

 

「・・お前が苦しまないか?」

 

・・・・。

 

「・・さぁ。もしかしたら、

後悔するかもしれないし

聞けてよかったと思うかもしれないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きく息をついた父親が

ようやく口を開いた。

 

 

「・・わかった。正直に・・答えるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「母親がいなくなった日は・・

ユジョンの誕生日じゃないよね。」

 

 

 

何度か軽く頷いた。

 

「あぁ・・母親が、

イェジがいなくなったのは」

 

一度、手元に落ちた視線を上げて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の7歳の誕生日だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許すも何も

 

 

 

 

この人は

 

 

ずっと俺達を守ってきた。

 

 

ノイズまじりの記憶が

色を音をとりもどす。

 

 

でも、あの時よりは

心が波打たない。

 

 

 

やっぱり、そうだったんだ

 

 

 

 

そう、思っただけだった。

 

 

水滴が1粒

落ちてきた感覚を思い出した。