8月12日(水)

 

 

事務所の会議室。

 

目の前の小さなブロックの

パーツをつけては外す。

 

さっきまで、撮っていた

ナムジュンとのVラ

 

けっこう、上手くできたと

思ったけど・・

 

目の前に残った

なんとなくできあがったモノに

首を傾げる。

 

相方が、あいつだったからか?

 

 

 

「おつかれ様~」

 

・・・・。

 

「あっ、チーフ。」

「お疲れ様です。」

「お疲れ様です。」

 

彼女の声に周りのスタッフが

頭を下げる。

 

それに答えるように

頭を下げながら

こっちに向かって来た彼女に

声をかけた。

 

「もしかして・・見てた?」

 

「見てた」

 

思わず笑ってしまった。

 

彼女が現場に来るのは

久しぶりだった。

 

俺の・・見てたんだ。

 

「・・なにかあったの?」

 

さっきまで、ナムジュンが

座っていたイスに腰掛けて

聞いてきた。

 

「・・あった。」

 

「ここで話せる?」

 

会議室の中には、まだ

数名のスタッフが残っていた。

 

・・・。

 

 

 

「・・そう、わかった。みんな、

ちょっと打ち合わせがあるから、

この場所借りるわね。

後で編集室行くから。お疲れ様」

 

首を振った俺を見て、

残っていたスタッフに声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・何があったの?」

 

こっちをまっすぐ見てきた彼女。

結い上げられた髪。

 

やっぱり、おろした方がいいのに。

 

「ジン?」

 

 

「・・俺には、無理らしい」

 

「何が」

 

「ブーケ・・作るの」

 

1度、タメ息をついた彼女は

 

「なんの事かと思ったら」

 

「なんでだよ、俺からしたら

大事な事だよ。みんな、何かしら、

するって言うから。じゃあ、

俺がブーケって言ったら、

全員・・大爆笑だよ。

まだ、作ってもないのに、・・」

 

「その女の子の結婚式・・

そんなに協力するの?」

 

「するよ。大切なARMYなんだから。」

 

「名前は?」

 

「もちろん、ふせるよ。何?

会社的には名前出した方がいいの?」

 

13歳の女の子の“結婚式”に

協力する事は伝えていた。

歌の事は黙ってたけど。

もちろん、Sakuraとテヒョンの事も。

 

「あなたが会社の事は考えなくていい。

それは、私の役目なんだから。」

 

守られているような、

線を引かれているような

 

・・・・。

 

 

 

「ちゃんと、寝てる?」

 

俺の言葉に、困ったように笑った。

 

「寝てるわよ。」

 

「ホントに?」

 

「何?そんなにキツイ?化粧」

 

いや、キレイだよ。

 

・・・。

 

「目の下のクマが気になって」

 

「おかしいわね、

高いパックしてるのに。」

 

 

 

「ちゃんとパジャマに

着替えないとダメだよ」

 

「え?」

 

「洋服のまま寝たらダメって

言ったのは・・ヌナでしょ」

 

「ジン、ここでは」

 

「今は2人しかいない」

 

また、タメ息・・。

 

「もう、デビューした時の関係

じゃないんだから」

 

「俺との関係は、その前からでしょ」

 

また・・

 

そうやってタメ息をつくから、

いつも、ここで言葉が止まってしまう。

 

わかってるよ。

 

それは、誰にも言わない秘密だから。

 

君と唯一、一緒に持てるモノだから。

 

 

 

「ねえ・・俺がパジャマ作ったら

・・いる?」

 

「え?」

 

「パジャマ」

 

「パジャマ?いつ作るの?」

 

「作ったら、いる?」

 

「よく、わかんないけど

試作品ならもらうわ」

 

「試作品はダメだよ。

プレゼントにならない。」

 

「プレゼントなら、

なおの事もらえない。」

 

・・・・。

 

!!

 

つくる・・プレゼント・・

 

呟き始めた彼女の口。

 

 

あ~あ・・

 

 

 

 

やってしまった。

 

彼女が握りこんだ左手を

軽く口元に当てては離す仕草を

繰り返し始めた。

 

 

 

頭の中が“仕事モード”に

変わったサイン。

 

俺のバカ・・。

 

 

「ジン・・」

 

「んーー」

 

おもしろくない。

 

「例えばね、メンバー1人1人が

1からこだわって作ったモノを

プレゼントするって・・どう思う?」

 

・・・。

 

「・・いい“企画”だとは思うよ」

 

「そうよね・・。そうよね。」

 

目・・キラキラしだした。

 

これ、また、寝ないんだろうな。

 

あーーーーーーー  もう・・

 

 

「じゃあ、俺、行くね。」

 

ヌナと話しながら、

散らばっていたブロックを

箱につめていたから、

テーブルの上はキレイになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ソクジナ」

 

!?

 

背中にかかった声が

“昔の”彼女の声で

思わず勢いよく

振り向いてしまった。

 

 

「心配してくれてありがとう。」

 

優しく笑った彼女。

 

“心配”じゃないよ・・。

 

「ううん。ヌナに・・チーフに

倒れられると俺達、みんなが

困るから。じゃあ、また明日」

 

「明日ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくつかの言葉を飲み込めば

「また明日」を笑って君に言える。

 

君も笑って答えてくれる。

 

 

 

その為だったら、我慢するよ。

 

正直、しんどいけど・・

それでも、君の傍にいられるなら。

 

 

 

 

 

ずっと、言わない。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆