「では、続きまして新郎新婦の

結婚を祝しまして祝歌です。

当院を支える2人に歌ってもらいます。

では、先生方よろしくお願いします。」

 

向かって右側

要求どおり作った“ステージ”に

2人が並ぶ。

 

 

 

「やっぱり、2人並ぶと、

カッコ良さが増すよね」

 

・・・・。

 

「13歳のくせに」

 

「年は関係ないわよ。看護師さん達だって

キャーキャー言ってんじゃん」

 

・・・。

 

後ろから聞こえる色がついた声

 

「チャン・ヒョク、パク・シン、

チャン・ヒョク、パク・シン」

 

・・・。

 

 

っていうか・・

 

流れたピアノの音

 

“I give to you”

 

ささやくなよ

 

 

  ●●●●

 

祝歌をどうするか考えてた時

たまたま、医局に戻って来た

リュ先生が言った。

 

「あの2人に頼みなさいよ。

自分達は歌うまいって

勘違いしてるから引き受けるわよ。」

 

勘違いって言葉に不安はあったが

それより

 

「でも、チャン先生、

抜けられるんですか?」

 

確か、オペの予定が入っていたはず。

 

「あ~、オペ・・いいわよ。

私が入るから。別にあっちじゃないと

ダメっていう訳じゃないし。

・・歌、頼んだら、たぶん

“しょーがねぇなぁ”って

絶対、言うわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「しょーがねぇなぁ」

 

本当に言った。

 

 

お礼を伝えて、

すぐに医局を飛び出した。

できるだけ離れた場所で笑う為に。

 

   ●●●●

 

 

 

でも

勘違い・・じゃなくてよかった。

 

ハモリまで・・

 

あんまりアレンジするなよ。

 

 

 

“時に泣いて笑ってくれる

僕には君だけなんだってこと

Fou you

 

  ・

  ・

  ・

 

Good to you

僕が遠くにいても

いつでもそばにいて

 

Good to you

たとえ つらい明日が来ても

僕の手を握っていて”

 

・・・・。

 

「ねぇ、」

 

歌の合間

聞こえた彼女の声

 

「本当に手術、成功したの?

・・なんか、苦しいんだけど」

 

・・・・。

 

 

 

 

 

 

「成功したよ。苦しいのは・・

泣くの我慢してるからだろ」

 

 

 

 

「・・泣ける訳ないじゃん」

 

また、唇を噛んでる。

 

「口、噛むな。傷になるから。」

 

ポケットから出したモノを彼女に渡す。

 

「・・こんなの持つタイプだったんだ」

 

「ユジョンイが絶対、

持って行けって言ったんだよ」

 

手にしたハンカチに視線を落とした

彼女の頭に手を当てる。

 

「嬉し泣きは、別に我慢しなくていいだろ」

 

 

「・・・・・。」

 

「幸せすぎて泣いてるだけなんだから。」

 

それでも、我慢してる彼女に

タメ息をついて、1枚の紙を渡した。

 

これだけ医療スタッフがいるんだから、

少々の事があっても大丈夫だろう。

 

「・・これ、マジ?」

 

震えた声。

 

「マジだよ。」

 

準備チームの名前と

それぞれの役割を書いていた。

後で渡そうと思ってたけど・・。

 

ようやく、

彼女の目から涙が出た。

 

「後で泣いた理由、2人に話せば、

心配はしないだろ」

 

頷きながら泣き出した

彼女の細くなった肩を引き寄せると

抗う事なく頭を預けて来た。

 

・・・。

 

 

 

おい、イ・スホ、

お前、ちゃんと

聞いてたか

 

歌、終わったんならマイク離せよ。

 

「この位置なんで、聞こえました。」

 

わかっただろ

 

「すみません、なんの事ですか」

 

俺のポテンシャルの高さだよ。

オペの腕もビジュアルも

しまいには歌まで、

「なんで、彼女いないんですか」

 

 

そりゃ、元奥さんの

トラウマがあるからだよ

 

パク先生もきちんとマイクを通して

言葉を返した。

 

あのな、俺は

付き合えないんじゃなくて、

付き合わないの。

 

「あ~、今のはよく聞こえました。

彼女ができない人の常套句ですよね」

 

・・お前、俺、

バイザーだからな。

 

「すみません、忘れてました」

 

会場が笑い声に包まれた。

 

「これ、大人の会話なの?」

 

隣に座った彼女も楽しそうに笑った。

 

・・よかった。

 

「はい、先生方ありがとうございました。

これでうちも安泰ですね。」

 

無理やりだな・・。

 

「では、皆さま、このまま

写真撮影に入ります。

中央にお集まりください。」

 

ピアノの前に3人掛けのソファを置いた。

2人の間に彼女を連れて行く。

 

薄紫色のドレスの彼女を囲むように

集まって写真を撮った。

 

それから、3人だけの写真。

 

参列者のスマホが

それぞれのシャッター音を出す。

 

彼女の笑顔が、

家族の笑顔が

幸せそうで、

 

 

みんな笑顔になっていた。

 

 

ポケットから取り出したスマホ。

画面越しの彼女に向かってつぶやく。

 

「約束、絶対守れよ」