「なんだよ」

 

眼球出てくんじゃないかって

言うぐらい目あけっぱなで

こっちを見てきたユジョン。

 

ようやく声が出だした

ジアさんの動きがまた止まった。

 

「な」

 

ユジョンまで一文字になった。

 

“何、言ってんの”

 

「BTSがここまでするのに、

知り合いの知り合いって

理由だけじや、弱いだろ」

 

「だ」

 

“だからって”

 

「大丈夫だよ」

 

1度、ジアさんに視線を送って

 

「彼女はお前より、口が堅いから」

 

俺の言葉に、口を結んだ。

 

「お、オンニ・・本当?」

 

まっすぐ見てくるジアさんの目。

 

できないくせに、どうにか、

ごまかそうとしていたユジョンが

 

「・・誰にも・・言わないで」

 

 

 

諦めた。

 

 

 

 

口元に当てていた手を

左胸に当て直した彼女が呟く。

 

「心臓・・手術しててよかった。」

 

 

 

「ん~もうっっ、スホヤっっ」

 

「なんだよ、」

 

「あんた、バカじゃないのっっ」

 

「あ?」

 

 

 

「あっ、大丈夫。大丈夫だから。

びっくりしただけ。大丈夫。」

 

・・・。

 

13歳にケンカを止められた。

 

「オンニ、私、絶対、誰にも言わない。

もう、ずっと、ずっと、私の中で

止めとく。だから、大丈夫。

・・それより、それより」

 

PCの方を指さす

 

「こっちの衝撃がすごくて・・。

なんか、私、もう、

死んじゃったのかって

一瞬、思っちゃった。」

 

「あっ、・・そう、だよね。

びっくりするよね。

でもね、これだけじゃないんだ。

スホヤが、バカな事言うから、

忘れてた。スホヤのせいで

 

ぶつぶつと。

 

「え?これ・・だけじゃないの?

まって、なんか、もう、

怖くなってきた。

オンニ、手、握ってていい?」

 

伸びて来た手をしっかりと握った

ユジョンは勢いよく頷いて、

それにつられるように彼女も頷いた。

 

・・・。

 

ようやく再生された。

 

『僕達にできる事は・・歌う事で、

ジアさんの明日を応援できればと思って。

今から歌うのは、まだ、どこにも

出していない曲です。で・・未完成です。

メンバーみんなで話し合ったんだけど、

この曲、少し、時間はかかるかも

しれないけど、いつか、ちゃんと

完成させて発表するから、

もし、まだ僕達の事を

応援してくれるなら、

それを楽しみにしてほしいと思って。

約束です。完成した時に、

また、その歌が、ジアさんを

応援できれば、幸せです。』

 

 

 

 

 

 

 

病室を静寂が包む。

 

 

 

 

 

わずかに息を吸い込む音が

聞こえたと思った次の瞬間、

聞こえた声

 

・・・マンネ?

 

なんの楽器の音もしない。

ただ、一定のリズムで

繰り返されるビート音の中

 

きれいな声が代わる代わる、

時には重なって聞こえた。

 

やっぱり

歌、うまいんだな。

 

 

 

 

 

フッと

途中で、また静かになった。

 

 

 

 

 

 

『キム・ジアさん、退院おめでとう。

結婚式、楽しんで。それから、僕達の事、

見つけてくれてありがとう。

いつか、会いましょう。それまで、元気で。

僕達も頑張ります。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ・・英語のとこ、

なんて言ってるのかな?」

 

 

・・・。

 

「これ」

 

1枚の紙を渡す。

 

この間、ヒョンの家で

聞かせてもらった時に

英語の部分も含めて

歌詞を書き写した。

 

 

文字をなぞる彼女が強く唇を噛む。

 

「・・いい歌詞だよね」

 

彼女の左手を握ったユジョンの言葉に

頷いた彼女の口が僅かに動く。

 

「これ、・・もらっていい?」

 

「あぁ、いいよ。その為に

書いたんだから。」

 

「ありがとう。」

 

「ん・・。ユジョンア、

もう、いいか?退院は決まってても、

身体は、まだ疲れやすいんだ。」

 

「あっ、そうだよね。ジアちゃん、

じゃあね。退院して落ち着いたら、

連絡ちょうだい。ゴハンとか

食べに行こうよ。」

 

「ナムジュンの家に?」

 

 

 

「ん~・・。言っとくよ。」

 

「嘘だよ、そんな事したら、

せっかく手術した心臓が

止まっちゃう。」

 

「それは、困る。」

 

「これで・・これで十分。もう、

最高のサプライズで

最高のプレゼントだよ。

オンニ、本当にありがとう。

オンニと会えてよかった。」

 

彼女はユジョンの腕の中でも

“ちゃんと”笑っていた。

 

 

 

「私も、ジアちゃんと

出逢えてよかったよ。

曲、楽しみに待ってようね。」

 

「うん。」

 

・・・・。

 

「ユジョンア、行くぞ。」

 

 

 

 

 

 

病室の出入り口で

背中にかかった声。

 

「せんせーい。帰る前でいいから、

なんか冷やすの持ってきて~」

 

・・・。

 

「わかった、帰る前に寄るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジアちゃん、喜んでくれてよかった。

オッパにも連絡しなきゃ」

 

「あぁ」

 

「でも、やっぱり、

いい言葉だよね、完成が楽しみ。」

 

ユジョンの弾んだ声が、

未完成の歌のフレーズをなぞる。

 

「“僕達は空にふれるんだ いつか。

最高の瞬間はこれから来るんだ。

さぁ、今からが始まりだ。

最高の瞬間はこれから来るんだ”」

 

・・・。

 

「英語で言えよ。」

 

 

「・・い、・・あっ、Yet to come」

 

「・・・短」

 

「うっさいわね。っていうか、

明日、ちゃんとエスコートしなさいよ。」

 

「わかってるよ」

 

「テリにも頼んでるけど、

写真、送ってね。」

 

「あぁ、」

 

「・・彼女の写真も」

 

「・・絶対、嫌だ」

 

「ケチ」

 

話ながら歩く廊下。

 

 

 

よく、我慢したな。

 

病室の彼女は、きっと泣いてる。

彼女の為だけに完成された

曲を聴きながら。

 

目、腫れなきゃいいけど。

 

 

後で病室行ったら

確認しとこう。

 

必死で涙を我慢した彼女が

強く握りこんだ手、噛んだ唇に

傷ができていないか。

 

明日は最高の瞬間を迎えられるように。

 

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