8月25日(火)【14:00】

 

 

 

個室のドアが

勢いよく開けられる。

 

「ジアちゃんっっ」

 

うるさ

 

時々、カトクでやり取りしていたとは

言え、会ったのは1度しかないのに、

 

目の前で抱き合う2人の距離感は、

数年分の付き合いがあるようだった。

 

 

「顔色、全然違う。よかった。大丈夫?

もう、息苦しくなったりしないの?」

 

「うん、もう、全然。手術の痕が

少し痛むぐらいです。」

 

「あっ、そうか、ごめん、

腕当たった?大丈夫だった?」

 

「大丈夫だよ。・・オンニ」

 

「う、うん。よかった。」

 

“オンニ”・・そう呼んでもいいかと

彼女から聞かれたと嬉しそうに

連絡してきた。案の上、直接呼ばれた、

その声に満面の笑みで答えるユジョン。

 

ホント・・・単純。

 

ベッドサイドのイスに座った

ユジョンが口を開いた。

 

「ジアちゃん、ごめんね。せっかく

誘ってくれたのに・・明日の結婚式、

出席できなくて」

 

明日は、

彼女の退院に合わせての結婚式。

 

ユジョンも出席予定だったが、

急にバイトが代われなくなったと

言ってきた。その代わり、

今日、彼女に会いたいと。

 

「こうやって会いに来てくれたんだもん。

すごく、嬉しい。」

 

むくみもない、酸素チューブも

外れた彼女の笑顔。

まだ13歳の女の子の笑顔。

 

「私も、退院する前に

どうしても会いたくて。・・これ、

直接、渡したかったんだ。

私からのプレゼント。」

 

 

 

「これ・・?」

 

ユジョンが渡した小さなピンクの袋。

 

「開けてみて」

 

その言葉に手を動かして、

掌にのせたUSBに首を傾げる。

 

サイドテーブルに置いたPCを開いて

彼女の前に近づけると、

俺とユジョンを交互に見ながら

USBを差し込んだ。

 

ユジョンが画面に映った

フォルダーをクリックする。

 

 

流れてきたのは、

彼女が好きだと言っていたBTSの曲。

 

「嬉しい。作ってくれたの?」

 

彼女の笑顔が

流れる音の中弾ける。

 

3曲目が終わって

 

少しの間の後

 

『いっつも遅刻してる・・

俺が一言言う?』

『おう、ジミナ、一言言え』

『ジミナ、一言言え、ホントに』

『バンタン代表で言え』

 

ザワザワした会話が聞こえてきた。

 

彼女の笑顔がさらに弾けた。

 

「Skitだ。えーっと、これ・・」

 

「いつのだと思う?」

 

彼女とユジョンの会話の後ろでも

続くザワザワ

 

『おーい、チョン・ホソク、ドア開けろ』

 

聞こえたヒョンの言葉に

 

「あっ、わかったっっ、この出だし

花様年華だっ。2の方」

 

そう言って手を叩いた。

 

「本当?」

 

ユジョンの言葉に嬉しそうに頷く。

 

「これ、ナムジュンが遅刻するから

ジミンが一言言うって・・で」

 

先を知ってるからか、

もう笑いだしていた。

 

 

相変わらずザワザワが続く。

 

『何、一言するの』

 

中に入って来たのか

メンバーに話しかけるヒョン

 

『おっ、来た来た』

『俺の名前がずっと聞こえるな』

 

 

「そう、そう、で、この後、テテが」

 

 

嬉しそうに口元に手を当てる。

 

『ヒョン、ジミニが一言あるって』

 

わざとらしく聞こえた咳払いにすら

楽しそうに頷く彼女。

 

『えー』

 

 

 

 

彼女の推しが言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

『キム・ジアさん、はじめまして、

ジミンです』