8月21日(金)

 

 

「ハルモニ~、ただいまぁ」

「ハルモニ~」

 

5日ぶりの声に自然と笑顔

なってしまう。

 

「おかえり、楽しかった?」

 

大きなキャリーケースに

たくさんの紙袋。

 

行きの荷物の倍にはなってる。

 

「マジで最高。」

「いや、これで頑張れるよ。勉強も。」

 

それは、なにより。

 

「旅行中、何もなかった?」

 

ガタガタとキャリーケースを

持ち上げるようにして

玄関に入って来た息子と

嫁に言葉をかけた。

 

「帰って来て早々、悪いけど、

ちょっといい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、なんかあったの?」

 

ゲストハウスのダイニングテーブルで

2人と向き合う。

 

「決めたわ」

 

「・・何を?」

 

「ここを売りましょう。

一緒に引っ越すから。」

 

5日前まで答えが出せなかった。

でも、もう、あの人は傍にいる。

連れて行ける。

 

壊しても、壊れても、

新しい事が始まるだけ。

 

「オモニム(お義母さん)・・」

 

急にこんな事を言い出した姑を

本気で心配してくれる優しい嫁。

 

「何があったの?」

 

息子も心配そうな顔。

 

「別に、なにも。ただ、ここを

引っ越したところでお父さんと

離れるわけじゃないって

そう、思えただけよ。」

 

「アボジと?」

 

やっぱり、わかんないわよね。

 

「とにかく、無理して言ってる

訳じゃないから。本当に

気持ちがスッキリしたの。

ここ、売りましょう。」

 

顔を見合わせた2人は、

また心配そうに私を見返した。

 

「だから、大丈夫だっ、」

 

RrrRRrrrRr

 

急に鳴りだした電話。

母屋とつながる電話だった。

 

壁にかかかった受話器を取った

息子が口を開く。

 

「どうした?ん?電話?」

 

思わず、嫁と目を合わせてしまった。

 

「わかった、とりあえず

そっちに戻るから。」

 

慌てた声に変わった。

 

 

 

「なに?なにかあったの?」

 

「いや、・・なんか、

さっきから予約の電話が

鳴りっぱなしになってるらしい」

 

・・・・。

 

「どういう事?」

 

「とりあえず、母屋に戻る。」

 

 

 

玄関を開けた瞬間、電話の音と一緒に

奥から、孫が駆け出してきた。

 

「で、電話の意味がわかった。」

 

電話の意味・・。

 

目の前に出された画面

震えてるのは、それを持つ

孫の手が震えていたから。

 

「なに、見えない、」

・・・。

 

孫の手から取ったスマホの画面に

写っていたのはインスタの画面。

アカウントは

 

BTSのRM

 

私が教えた景色と

一番最後に遠目でわずかに

ここが写り込むように撮られた写真。

 

 #butterfly

 #lowkey

 #lifegoeson

 

「来てたんだよ、ナムジュン、ここに。

ここだよ。すぐ、そこ、通ったんだよ。

ハルモニ見なかったの?やっぱり、

変装してたのかな?ねえ、ハルモニ、

わかんなかった?」

 

・・・。

 

「見てたら・・今頃、倒れてるわよ。」

 

奥では、途切れたと思ったら、

すぐに鳴り始める電話の音。

 

私の言葉に真顔になる孫

 

「そうよね、それは、それで困る。

大好きなハルモニが倒れるとか・・。

だから、わざと会わせなかったのね。」

 

「・・誰が?」

 

「ん?ハラボジだよ。だって、今の

ハルモニはナムジュンしか

いないんだから、ヤキモチ焼いて

会わせなかったんだよ」

 

・・・・。

 

「慌てただろうね~、

ハルモニがARMYに

なっただけでも

びっくりなのに」

 

もう1人の孫まで

笑いながら近寄ってきた。

 

「まさか推しのナムジュンが

すぐ近くまできたんだもん。」

 

・・・。

 

なぜか2人とも抱き着いてきた。

 

「・・どうしたの?」

 

「せっかく、ハラボジがハルモニが

倒れないようにしてくれたんだから

元気でいてよ」

 

「ソウルに泊まって思ったの。

あそこ空気悪い。私、ここが好きよ。

ここで暮らそう。」

 

・・・・。

 

「私は、幸せ者ね。」

 

 

「ハルモニ~・・泣かないで

めずらしくメイクしてるのに。」

 

・・・。

 

「そうね。・・ウォ・・

なんとかにしないとね」

 

「うぉ?」「うぉ?」

 

「なんでもない。」

 

 

・・・本当にありがとう。

ユジョンさん、

 

キム・“ナムジン”さん

 

 

☆☆☆☆☆☆☆