8月4日(火)【15:00】 


 

髪を2つに結んだ女の子。

 

指からつながる機械。

 

酸素チューブ。

 

紫がかった唇。

 

ハルモニがよぎったけど

一瞬で消えたのは、彼女の

まわりにいるバンタン。

 

オッパ、ここにも

支えられている子がいるよ。

 

思わず、心の中で呼びかけてしまった。

 

やっぱり、すごいなぁ

バンタンって。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

「あの・・スホ・・先生に

聞いたんですけど」

 

スホ“先生”

 

・・・・嬉しい。

 

「うん」

 

「デビュー前のナムジュンを

知ってるって・・」

 

「あ~・・うん。」

 

大きく開いた目が

キラキラしたのがわかった。

 

可愛いなぁ。

 

持ってきた紙袋の中から

取り出したノートを

彼女の手に渡した。

 

もう、表紙はくすんでしまってるけど

 

「なんですか?これ」

 

「オッパが」

オッパっっ

 

あ・・

 

「し、しばらく通ってくれてたから、

あっ、もちろんデビューしてからは

1度も会ってないんだけど」

 

「すごい、そんなに

親しかったんですかっっ、

すごい、いいなぁ」

 

・・・なんか、嬉しいような

申し訳ないような

 

「ユジョンさんがいくつの時

だったんですか?」

 

「えっとね、13歳。

今のジアちゃんと同じ年だね。」

 

「わぁ、すごいなぁ。歴史を感じます。」

 

・・うん、確かに・・色々、あったな。

 

「これ、見ていいですか」

 

「うん、いいよ、いいよ」

 

開いたノートの1ページ目。

書かれた言葉を音にした。

 

「・・お皿 10・グラス5・イスの足

・・ピッチャー・・風鈴・・ドアノブ?」

 

一瞬であの時のオッパの顔が浮かんで

吹き出してしまった。

 

「・・なんですか?これ。」

 

「これ、オッパが壊した店のモノ。

ちゃんと弁償してもらう為に

忘れないように書いてたの。」

 

「ドアノブも壊したんですか?」

 

「すごいよね。電磁波が出てるって

自分で言ってた。」

 

「電磁波・・?」

 

「意味わかんないよね。

それに、食い逃げするし」

 

「食い逃げ・・」

 

「あっ、それもちゃんと書いてる。

ここ。」

 

「“チャジャン麵 3人前・・済”」

 

「これは、ちゃんと払ったから」

 

私の言葉に楽しそうに笑った。

 

「すごい、本当にいるんですね。

なんか、もう、遠すぎて。時々、

本当はいないんじゃないかって。」

 

・・・。

 

「ちゃんと、いるよ。みんな生きてるよ。」

 

「・・・はい。」

 

・・・あ、“生きてる”は

・・あれだったかな。

 

 

 

ユジョンさんっつ

 

 

!?

 

「どうした?」

 

びっくりした。

 

「こ、これ、・・

ナムジュンの字ですか?直筆?」

 

彼女が開いたページ

 

あぁ・・“契約書”

 

 

 

 

「うん・・でも、お店は

なくなっちゃったけどね。」

 

「あっ、そうでしたね。

・・ごめんなさい。」

 

「え?あっ、全然、全然大丈夫。

気にしないで。ちゃんと

想い出があるから。」

 

「想い出・・。」

 

「うん。オッパだけじゃないよ。

そこで家族や友達と過ごした時間も

ちゃんと私の中で残ってるから。

全っっ然、淋しくないよ。」

 

キュッと唇を結んだ彼女が軽く頷いた。

 

・・・・。

 

何か、隠れてる言葉が

あるのはわかった。

 

「あっ、そう、この“契約書”

書いてる時もね、私のお気に入りのペン

貸してたんだけど、オッパが触った後、

書けなくなったの。すごくない?」

 

「・・ナムジュンって

本当に“破壊神”なんですね」

 

「でも、・・神様には変わりないから

いいよね。」

 

私の言葉にキョトンとした表情をして、

また楽しそうに笑った彼女にホッとした。