★
「ん~・・・・」
?
「そろそろ・・苦しい」
あっ
慌てて腕を緩める。
「ごめん」
ちょっと、彼女が
見れなかった。
「・・よしっ、オッパ、
あっち行ってみて」
「・・あっち?」
顔を上げたら
「あっち、早く」
彼女は俺の後ろに回って、
背中を押し始めた。
・・・・・。
「100億円には負けるけど、
ここからの眺めもいいもんだね」
・・・・・。
「今日は、
いい天気になるってよ」
・・・・。
「天気がいいとさ、それだけで、
ポジティブになれるって
すごいよね」
「・・ユジョンア」
「ん?」
「なんで、そこで話すの?」
ベランダに出た俺の背中に
ピッタリくっついたまま
話す彼女に言葉をかけた。
「・・だって、どこから撮られてるか
わかんないじゃん。スホも、
気をつけろって言ってたし」
・・・・・。
けっこうな上層階ではあるけど
まぁ、それもそうだ・・。
「あっっっっ」
!!っっ
びっくりした。
「・・オッパ」
「なんだよ」
「どうしよう・・私、さっき、
ここに立って、ぼーっとしてた。
・・・こんな格好で」
・・・・・。
俺のTシャツ1枚・・。
「・・“妹”にしときますか?」
俺の言葉に
「・・うぅぅぅ・・ん」
タメ息まじりに
「それが1番いいよね」
まだ撮られてもいないのに
思わず笑ってしまった。
「ちょっと、笑い事じゃないでしょ。
もし、万が一の事があったら
ちゃんと“妹”って言ってね」
「わかった。ちゃんと言う。・・でも、
それまでは“彼女”でいいんだろ?」
顔は見えないけど
「・・いいよ」
嬉しそうに
笑ってるのがわかった。
「・・ユジョンア」
「なに?」
「どこにも行くなよ」
「え?」
「俺をおいて、離れたり」
「しないよ」
・・・・。
「どこにも行かない。
オッパを独りになんか
絶対にしない」
あ~あ、
思わず大きく息を吐いた。
やばいな
少しだけ、目の前の景色が
ぼやけかかる。
彼女の優しすぎる言葉が
続く前に
普通に話したかったから
1度、咳払いをした。
「よし、戻るぞ」
?
返事がない。
「ユジョンア?」
「・・オッパ、これ・・
戻る時どうしようか」
・・・・。
「・・タイミングあわせて
同じように後ずさりしよう」
まじめに解決策を提案した。
「・OK、じゃあ、右足からね、」
彼女がTシャツをつかむ。
両手は自然と彼女を囲うように
後ろに伸びた。
「せーの、右、左、右」
自分家のリビングに戻るのに
何やってんだ
リビングに入った瞬間、
どちらからともなく
笑い出した。
「バカじゃないの?
自分家で何やってんの?」
涙まででてきたのか
目尻に指を当てて彼女が笑う。
差し込み始めた朝日が
楽しそうに笑う彼女が
冷たく寒々しかった
部屋の温度を上げていく。
ここに帰ってきたい。
彼女は、もう、
俺の“家”だった。
ここに帰る。
帰る場所がある。
彼女は、どこにもいかない。