【11:55】

 

 

・・・お腹、すいたな。

 

 

“アッパ”

 

 

・・聞こえたかな。

 

走って、大丈夫だったのかな。

身体、きつくならないかな・・。

 

風邪とかひいたら

普通より、症状重くなっちゃうのに。

 

ごはんまで、食べたらよかったかな

 

 

地下鉄の窓ガラスには

外の景色のかわりに私が映っていた。

 

 

頭の中、言葉が浮かんでは、

止まって、消えて

また、別の言葉が浮かんで・・

 

結果、ガラスに映る

私の表情は、ずっと変わらなかった。

 

 

 

 

 

スマホが震えた。

 

『夕方、ちょっと出てくる。

ヌナによろしく言ってて』

 

・・スホ・・デートかな。

 

 

ふと画面から視線をあげた。

 

・・・・。

 

 

壁に張られた広告

 

“Happy  Valentine”

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・あっ

 

 

 

そうか、

 

 

今日、バレンタインか。

 

 

アッパと会う事ばっかり

頭にあって・・・忘れてた。

 

あ~ね、

だから、スホも

会いに行くのかって、

わざわざ聞いてきたんだ。

 

 

 

 

・・なんも用意してない。

 

・・・って、会えないだろうし。

 

“少し”忙しくなるって言ってた。

 

いつも、時間をつくってくれる

オッパが言ってきたんだ。

 

“すごく”忙しいんだ。

 

 

 

“何かあったら、カトクいれて。”

 

 

今日、会う事は言ってなかった。

 

 

カトク・・いれとくかな。

 

オッパの画面を出して指を動かす。

 

 

 

 

 

・・・・。

 

 

 

文章って難しい・・。

 

ん~・・。

 

 

 

あっ、

 

画面の上、通知が入った。

 

 

 

『無事に会えたか?』

 

・・・。

 

今日、会う事を知っていたのは、

彼だけだった。

 

 

指が止まる事なく動き始めた。

 

『会ったよ。今、電車。

おなかすいたとか考えてた。』

 

すぐに数字が消えた。

 

『今、どの辺?今日、休みなんだ。

メシ、行くか?』

 

 

 

・・・。

 

 

 

『“友達”として?』

 

『友達として』

 

・・・・。

 

『わかった。割り勘で。

次が〇〇〇だから、

その次で降りるよ。』

 

『わかった。30分で行く。

店、みつけといて。』

 

・・・。

 

『チョコいる?』

 

『明日、先輩にバカに

されたくないからいる。』

 

窓ガラスに映った私が初めて笑った。

 

『わかった。じゃあ、あとでね。』

 

・・・・。

 

さっきより、頭の中が

クリアになった気がした。