【11:55】
☆
・・・お腹、すいたな。
“アッパ”
・・聞こえたかな。
走って、大丈夫だったのかな。
身体、きつくならないかな・・。
風邪とかひいたら
普通より、症状重くなっちゃうのに。
ごはんまで、食べたらよかったかな
地下鉄の窓ガラスには
外の景色のかわりに私が映っていた。
頭の中、言葉が浮かんでは、
止まって、消えて
また、別の言葉が浮かんで・・
結果、ガラスに映る
私の表情は、ずっと変わらなかった。
?
スマホが震えた。
『夕方、ちょっと出てくる。
ヌナによろしく言ってて』
・・スホ・・デートかな。
ふと画面から視線をあげた。
・・・・。
壁に張られた広告
“Happy Valentine”
・・・・あっ
そうか、
今日、バレンタインか。
アッパと会う事ばっかり
頭にあって・・・忘れてた。
あ~ね、
だから、スホも
会いに行くのかって、
わざわざ聞いてきたんだ。
・・なんも用意してない。
・・・って、会えないだろうし。
“少し”忙しくなるって言ってた。
いつも、時間をつくってくれる
オッパが言ってきたんだ。
“すごく”忙しいんだ。
“何かあったら、カトクいれて。”
今日、会う事は言ってなかった。
カトク・・いれとくかな。
オッパの画面を出して指を動かす。
・・・・。
文章って難しい・・。
ん~・・。
あっ、
画面の上、通知が入った。
『無事に会えたか?』
・・・。
今日、会う事を知っていたのは、
彼だけだった。
指が止まる事なく動き始めた。
『会ったよ。今、電車。
おなかすいたとか考えてた。』
すぐに数字が消えた。
『今、どの辺?今日、休みなんだ。
メシ、行くか?』
・・・。
『“友達”として?』
『友達として』
・・・・。
『わかった。割り勘で。
次が〇〇〇だから、
その次で降りるよ。』
『わかった。30分で行く。
店、みつけといて。』
・・・。
『チョコいる?』
『明日、先輩にバカに
されたくないからいる。』
窓ガラスに映った私が初めて笑った。
『わかった。じゃあ、あとでね。』
・・・・。
さっきより、頭の中が
クリアになった気がした。