「・・ンア、ユジョンア」

 

「・・えっ、あっ、何?」

 

「・・ノート、見せて。」

 

 

 

いつのまにか、カウンターを挟んで

オッパが立っていた。

 

・・・。

 

 

私は、開いたノートをオッパに向ける。

 

 

その時、

 

 

「ただいまぁ」

 

店の裏口から声がした。

 

あっ、

 

「あら。ナムジュナ来てたの。

・・ん~?」

 

買い出しから帰ってきた叔母さんが

カウンターの上のノートをのぞき込む。

 

「何?ドアノブ?うそ、あっ、ホントだ。」

 

オッパが手に持っていたドアノブを見て

 

 

 

 

・・・爆笑していた。

 

 

 

 

 

なんで?

 

なんで2人が怒らないのか

全く理解できなかった。

 

 

叔母さんは笑いながら、

ちょっと片付けてくると裏に回った。

 

椅子に座ったオッパは、タメ息をつきながら

自分の両手を見続けている。

 

・・・。

 

 

「ユジョンア」

 

「・・何?」

 

「俺の手・・やっぱり、

なんかの電磁波が出てるのかも」

 

・・電磁波ってなんだ

 

「そんな話、聞いた事ないよ。」

 

「・・俺も。」

 

 

じゃあ、なんで言うのよ。

 

また、ため息をつく。

 

なんか・・私がいじめてるような

気持ちになってきた。

 

・・・。

 

 

「芸能人になって、お金が入ったら、

全部弁償してよ。」

 

 

 

ハルモニも叔母さんも許してるんだし・・

私が、そこまで怒らなくていいのかも

 

「・・・なれなかったら?」

 

 

なんだろ、いつものオッパと違う気がした。

 

 

「そんな事、私に言われたって」

 

「・・だよな。」

 

「なりたいなら、なればいいじゃん。」

 

「・・そんな簡単なもんじゃないんだよ。」

 

そんな事、知らん。

 

「じゃあ、やめればいいじゃん。」

 

「・・諦めるのは嫌だ」

 

 

 

 

 

・・・これ、話、終わるの?

 

 

「じゃあ、頑張るしかないじゃん。」

 

「・・頑張ってるけど」

 

また、ため息

 

 

・・・もうぅぅぅぅっつ

 

しつこいっっ

オッパ、男でしょ。ぐちぐち言わないで。

なりたいモノも、やらないといけない事も

わかってんだから、頑張るしかないじゃん。

どっちにしたって、オッパは壊した物、

全部弁償するんだから、お金いるんだから。」

 

カウンター越し

 

説教してるのは14才の中学生。

されているのは17才の高校生。

 

口をあけて、こっちを見ていた

オッパがフっと笑った。

 

 

 

・・・えくぼ。

 

「・・そうだな。うん、

お前の言うとおりだ。

頑張るだけだもんな。

・・ありがとな、ユジョンア」

 

!!

 

ポンと頭の上に手が置かれた。

大きな手の感覚に、

心臓がドクンってなって

思わず、目を逸らしてしまった。

 

「べ、別に・・」

 

 

「あぁ~、そうだ、

ユジョンア、ペン貸して」

 

「・・なんで?」

 

「いいから。」

 

・・・。

 

「わかった。」

 

持っていたペンを渡す。

私のお気に入りのペンだった。

 

受け取ったオッパが

ノートの一番下に書き込む。

 

“必ず、有名になって俺が壊した物、

全部、責任を持って弁償します。

なんなら、お店が古くなった時の

改修工事費も出します  

キム・ナムジュン”

 

「よしっっ」

 

「何?これ・・」

 

「契約書。俺は、嘘をつく事が嫌いだから、

ここに書いた事は必ず守るから。」

 

「・・お店壊す気?」

 

「・・・。」

 

「嘘だよ。わかった。

じゃあ、早く有名になってよ。」

 

「おぅ。・・じゃあ、帰るよ。」

 

「うん。あっ、オッパ、ペン返して」

 

「あぁ、そうだった。はい」

 

受け取って、気付いた。

 

日付がない。

 

日付を書き足そうと、

ノートの上、ペンを走らせる。

 

 

 

 

・・・・ん?

 

 

「ん?」

 

オッパの声。

 

 

 

 

・・・・。

 

ノートの上、グルグルとペンを動かす。

円を描いた跡だけが見える。

 

 

 

 

 

「嘘でしょ・・・。」

 

「あ~・・ユジョンア・・」

 

私のお気に入りのペンだったのに・・。

 

さっきまで書けたのに・・。

 

睨みつけた視線の先

 

こっちを見ないオッパに

叫ぶように言った。

 

「これと同じペン100本買って返して。

っていうか、オッパには、

もう、何も貸さないからっっ」

 

私の言葉に、頷きながら

 

「・・ノートに」

 

 

「言われなくても、書いとくわよっっ」

 

 

 

 

「・・ごめんなさい。」

 

 

 

カウンターを挟んで

中学生に怒られた高校生が

肩を落として帰っていった。

 

 

 

 

 

 

もう1度、ペンを動かす。

 

やっぱり、書けない・・。

 

私のお気に入りのペン。

 

 

 

 

 

 

「あらあら」

 

 

 

 

 

 

ハルモニの言葉に思わず叫んでしまった。

 

 

 

 

オッパなんか、

大っっっっ嫌い