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「アリガトウ」
その言葉に彼女が笑う。
顔を挟んだままの両手で
軽く頬を撫でる。
「・・ごめんね」
謝る言葉が聞こえた。
さっき、つねった事を
謝っているのがわかった。
首を横にふると、また、笑った。
そして、手を離す。
なぜだろう、すこし淋しかった。
彼女がヌナに何か言っている。
ヌナが驚いていた。
慌てた様子でこっちを見る。
「(お礼も言ってもらったし、
おつりも返してもらったから
帰るって。)」
まるで、
近所に住んでいるかのようなセリフ。
だめだ、
この部屋を出ると、もう会えない。
まだ、ちゃんと伝えてない。
それに、
もう1度、あの夜のように
彼女と音で遊びたかった。
気づいたら、
彼女の腕をとって、首を振っていた。
思わず口走った言葉をヌナが伝える。
「(曲をつくるのを手伝ってほしい)」
彼女は、目と口を大きく開いた。
すごい勢いで頭を振る。
断られているのがわかった。
「オネガイ・・デス」
また、目を開く。
俺の顔と
腕をつかんだままの手を
交互に見ていた彼女が
ため息まじりに何かつぶやいて頷いた。
ヌナが笑顔になったから、
まだ居てくれる事がわかった。
ホッとした。
嬉しかった。
また、あの夜に戻れる。