🔳

 

 

・・・・。

 

声が聞こえる。

 

起こすな、もう少し

 

それでも声は続く。

 

頭から布団を被る。

急に布団を取られた。

 

もう少しだけ寝かせろ・・。

 

もう一度、

布団を取ろうとしたら、

向こうも引っ張っていた。

 

テヒョン・・

いや、ジョングクか・・。

 

力一杯布団を引っ張ると

体の上に重さがかかる。

 

・・・・。

 

いつもの重さじゃないような

気がした。

 

・・テヒョン、か・・?。

 

ゆっくり、目を開ける。

 

ぼやける視界が

少しずつ焦点を合わせる。

 

 

 

ここ、どこ・・。

 

 

 

 

 

・・・・・。

 

 

 

 

頭の中

パラパラと開かれ始めた記憶

 

 

 

 

・・じゃあ、今、

上に乗ってるのは、

 

ゆっくり視線を落とす。

 

 

同時に

咳払いが聞こえた。

 

自分が彼女をホールドしている事に

気づいて慌てて、腕をほどく。

 

その瞬間、彼女がすごいスピードで

起き上がって離れて行った。

 

 

 

本当に・・ごめんなさい。

 

 

 

昨日着ていた服は

きれいに畳まれていて

その上に新しい靴下まで

乗っていた。

 

歯ブラシも靴下も

買ってくれてたのか

 

 

・・パンツも。

 

脱衣室で着替える。

 

扉を開けると、彼女が玄関に立っていた。

俺を見た彼女が言った。

 

「えぇっと・・、ケンチャナ?」

 

不思議な感覚がした。

返事をしない俺に、

慌てた様子で画面に文字を打つ。

 

『(間違ってた?大丈夫?)』

 

思わず笑ってしまった。

 

「クェンチャナヨ、コマップダ。」

 

小首を傾げる彼女に

 

「カムサハムニダ」

 

と頭を下げると、

今度はわかったのか

 

「ああ、カムサハムニダ」

 

と言って、彼女も頭を下げた。

 

また、笑ってしまった。

 

 

 

 

マンションの前に1台のタクシー。

彼女は運転手に何か話しかけていた。

 

その間、最後の連絡をいれる。

 

そして、乗り込んだ俺の手に

1枚のお札を乗せた。

 

えっ?

 

彼女も一緒に乗ってくると思っていた。

お金は、着いてから

返そうと思っていたけど、

考えてみれば、それはそれで

迷惑な話だ。

 

迷っているのがわかったのか

画面を見せて来た。

 

『(昨日、楽しかったから。

気にしないで。お友達に、

ちゃんと謝ってね。

時間がないから、行って。)』

 

感謝しかなかった。

 

せめて

 

「ナ、ナマエ」

 

彼女は笑った。

 

「すず、とみなが すず」

 

スズ・・。

 

「あくしゅ」

 

聞こえた言葉に

右手は素直に動く。

 

昨日の夜は

この手をすり抜けた“あくしゅ”

 

今度は、しっかりと握った。

 

温かい手だった。

 

ドアが閉まり、走り出した車。

 

後ろを見ると、

彼女は背中を向けていたが、

大きく両手を伸ばしていた。