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なぜ、ギターを弾いてと

言ってきたのだろう。

もしかして、

気づかれたかとも思ったが、

彼女の様子を見る限り、

そんな感じもしなかった。

 

それもあってか、

手は勝手にギターに伸びていた。

 

弾きながら、

目の前に立つ彼女を見ると、

昔を思い出した。

 

誰もいない所から始まった

 

その気持ちで、「あの時」も乗り越えた。

 

やっぱり、音楽っていいな。

 

弾き終わって、

ふと彼女に視線をやると

優しく微笑んでいた。

 

一瞬、壁が消えたような感覚がした。

 

何かが、つながった気がした。

 

『だいじょうぶ?』

 

繰り返してくれた彼女の手を

借りる事になった。

 

 

 

 

 

彼女のスマホを借りて、距離をとる。

 

フロントから繋いでもらった電話。

 

電話口でスタッフが

早口でまくしたてる。

 

『ユンギさんっっ、今、どこですか、

部屋じゃないんですか』

 

「あっあぁ、色々あって、

今 外にいて・・」

 

『外っっ!?』

 

いつもは、

穏やかな口調で話すスタッフだ。

 

『・・わかりました。

迎えをやります。どこですか?』

 

「・・あ、えーと、

ホテルの近くにはいるんだけど・・

・・どこか、わからない」

 

はぁっ!?

・・誰かといるんですか?』

 

一瞬、

離れた所で待つ彼女に目をやったが、

ややこしい話になりそうだったので

否定した。

 

『・・そうですか。

とりあえず、今は、動けないので。

どこかにいる事はできますか?

連絡は、すぐとれるようにしておいて・・

・・待ってくださいよ。

外線って事は、私の連絡先は、

いれてなかったんですか?』

 

・・・。

 

「・・スマホ、

部屋に置いてきてるんだ」

 

はぁぁぁっ!?

 

 

 

普段は穏やかなスタッフなんだ。

 

それだけ大変な事になっているんだろう。

 

『・・じ、じゃあ、この電話は

どうやってかけてきたんですか?』

 

「・・借りた。」

 

『・・。』

 

本当にごめん。

 

『ユンギさんの事、知ってるんですか?

写真とられたりとか・・』

 

慌てて遮る

 

「いや、それはない。

気づいていないフリでもない・・と思う。」

 

『・・女性ですか?』

 

「・・えーっと・・」

 

ため息が聞こえた。

 

・・・ごめんなさい。

 

『わかりました。非常事態です。

彼女が気づいていないなら、

できれば傍にいてください。

連絡ができる状況に

しておいてください。』

 

「・・いや、それは」

 

『ユンギさんっっ』

 

 

わかりました・・。

 

 

 

ため息をついて電話を切った。

 

振り返ると、

彼女は反対の方向を見ていた。

 

どう言ったらいいんだよ・・。

 

「うわっ」

 

彼女の驚き方に、

気づかれていないという

変な確信がうまれる。

 

とりあえずスマホを返す。

 

どう考えても、

これ以上は彼女を巻き込む事になる。

 

「アリガトウゴザイマシタ」

 

どこに行けばいいかも

わからなかったけど・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・。

 

 

気づくと、彼女は俺の手から

ギターを取って先を歩いていた。

 

振り返った彼女が、手招きしていた。