12月9日(金)【13:55】

 

 ◇ Red

 

これって・・

 

目の前には

ペンキ缶、壁紙

ペインティングの道具に

いくつもの未開封のダンボ―ル

工具まで。


そして、


誰1人、お互いの言葉を

聞いていない作業服のメンバー達がいた。

 

今月6日から、彼らはデビューして

2度目の長期休暇に入った。

年末・年始を家族で過ごせるのは、

デビューして初めての事になる。

特に、テヒョンの喜びようはなかった。

 

予定日が、12月30 日。

彼の誕生日だったから。

 

次々と箱から出されるモノ達が

リビングを狭くして行く様子を

立ったまま見ていた私に

 

「ヌナ、危ないから座ってて」

 

ホビが声をかけた。



部屋の端に寄せられていたソファまで

十分なスペースはあったが、

近くにあった段ボールを足でけりながら

さらにスペースを確保してくれた。

 


 

話し合いの結果、

私の家は、そのまま残し、

生活は彼の家でする事になった。

ゲストルームだった部屋を

子供部屋にする事に

決めてはいたけど。


「よ、っと」


隣に座ってきたのはジョングクだった。


働くヒョン達をソファで悠々と

見守っている。

 

「ジョングガ・・」

 

「ん?」

 

「これって・・やっぱり」

 

「いちごちゃんのお部屋づくり~」

 

心の底から楽しそう・・。

 

 

 

でも、これ、今日で終わらなかったら、

彼が1人でするの?

 

半分しか貼られていない壁紙

未開封の段ボール。

ネジがなくなったと、そのままの家具達。

その中で、ウロウロするテヒョンしか

想像できなくて、正直




不安しかなかった。

 

「ねぇ、ヌナ」

 

「何?」

 

「あのさ、お腹触っていい?」

 

目がキラキラしている。

 

可愛いなぁ。

 

「いいよ」

 

「本当!?」

 

「でも今、あんまり動かないから

お昼寝してるかも」

 

って、聞こえてないかな・・


満面の笑顔で、

指輪を外して手を温め始めていた。

 

服の上からなのに・・。

 

身体の中が温かくなる。

 

思えば、彼らも一緒に乗り越えてくれた。

 

テヒョンの傍に彼らがいてくれたから、

私達は、今日を迎えられている。

 

「いちごちゃん、こんにちは」

 

お腹の上の方に手を置いて

話しかけるジョングク。

 

ん~・・

 

なんとなくの感覚だけど、

ちょっと違う気がして、

彼の手をお腹の左側へ移動させると

一瞬、キョトンとしたけど、

そのまま、言葉を続けた。

 

「聞こえる?オッパが来たよ~。

今日はね、おじちゃん達が、

一生懸命働いてるから

一緒に応援しようね。あっ、

オッパのとこにはね、

大きなワンワンがいるけど、

とってもおりこうさんだから、

今度、一緒に遊ぼうね」

 

その時、



彼の大きな目が

さらに大きくなったのは、

いちごちゃんが“返事”をしたから。


その目のまま、私の顔を見てきた。

 

「楽しみにしてるって」

 

私が言葉を添えると

とびっきりの笑顔で頷いた。

 

「あぁ、ずるい」

 

私達の様子を見た

ジミンが駆け寄ってきた。

 

「ヌナ、俺も触っていい?」

 

「どうぞ」

 

彼も、ジョングクと同じように

手をこすり合わせて温めて

そっとお腹に手を当てる。

 

今度も違うような気がして、

おへその上あたりに移動させた。

 

 

「いちごちゃん、聞こえる?

君のオッパだよ~。

ねぇ、早く会いたいねぇ。

楽しみにしてるよ。・・そうだ、

大きくなったら、オッパとデートしようね。

もう、なんでも買ってあげるよ」

 

!?


グーっと中からお腹を

押し上げるのがわかった。

 

「わあぁぁ、ヌナ、見た?。

今の、見た?もう可愛いってどういう事?

本当にかわいい。よし、ヌナ、約束ね。

いちごちゃんの1番最初の

デート相手は俺だから」

 

絶対、テヒョンが譲らないと思うけど。

 

ふと顔を上げると、

他のメンバーが私の前に1列に並んでいた。

 

少し前に、世界的な賞に

ノミネートされたばかり


世界のBTSが・・

 

思わず、声をあげて笑ってしまった。

 

ねぇ、本当に、幸せだね。

みんな、あなたとの未来を

楽しみに待ってくれているんだよ。


もちろん、


オンマも幸せだよ。

怖いくらい幸せ。


本当に怖いくらい・・。

 

「わあぁぁぁ、今、“わかった”って」


空気が読めるのか、

メンバー1人1人にちゃんと応えた

いちごちゃんに、それぞれが、

なんとも言えない顔になって、

交わした約束を必ず守る事を

改めて誓っていた。



でも、


肝心なアッパの時は、

静かになってしまったけど。

 



結局、作業が始まったのが

15時前

 

・・これは、今日じゃ、終わらないな

 

私の心の声が聴こえたのか、

ユンギが声をかけてきた。

 

「大丈夫だよ。

俺が最後まで責任もつから」

 

その言葉に

反応したのは、いちごちゃんだった。


 

もしかして、


心の底から

ホッとしたのがわかった?