【14:45】

 

 ◇ Blue

 

実家まで車を走らせる。

スマホから流した曲が少し

センチメンタルだったからか

流れる景色に昔の風景が重なった。

                  

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僕が、事務所のオーデイションを

受けたいと言った時、

両親は猛反対した。

黙って受けに行った

オーディションに合格した時も

2人は喜ぶ様子もなかった。

その夜、リビングで泣く母さんの背中を

父さんが優しく抱きしめていた。

僕が家をでる日まで

母さんと向き合って話す事はなかった。

新しい環境、

消化するだけで精一杯の日々。

好きだったから頑張れた。

でも本当は少し、疲れていた。

そんな時、かかってきた電話。

久しぶりの父さんの声だった。

近くに来ていると。

どんな顔をして行けばいいか

わからなかったけど、

足は勝手に駆け出していた。

2人の姿を見た瞬間、1度足が止まった。

母さんが僕に気づく。

僕が早かったのか、

母さんが早かったのか、

涙が溢れ、僕はまた駆け出していた。

母さんは、しっかりと抱きしめてくれた。

 

近くの食堂で食事をしながら、

父さんが口をひらいた。

    

「歩きたい道なのか?」

    

「・・うん。」

 

これから、どうなるか

全くわからなかった。

僕よりダンスも上手くて、

歌も上手い練習生はたくさんいた。

でも、それでも、続けたかった。

    

「たまには、帰ってこれるの?」

 

母さんは、僕をまっすぐ見た。

     

「・・うん。」

 

帰ってきていいんだ。

僕の場所は・・まだ、あったんだ。

父さんが手を重ねる。

   

「テヒョンア、お前の選択を信じるよ。」

 

ただ、と続ける。

   

「もし、うまくいかなくても、忘れるな、

 お前には帰る場所がある事。

 独りじゃない事。絶対に忘れるな。」

    

「私達が、あなたの最初のファンね。」

 

母さんが、僕の髪をなでる。

僕は、すっかり小さい頃にもどっていた。

2人と別れて

宿舎への道をたどる僕の足は、

自信に満ち溢れていた。

自然と笑顔がこぼれ、

僕は、また走り出した。

                 

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