8月14日(金)【8:00】

 

 ◇ Red

 

本当に、疲れていたのだろう。

 

結局、あれからシャワーも浴びず、

朝まで眠ってしまっていた。

 

久しぶりの深い眠りから、

なかなか頭が働かない。

 

ベッドを降り、ヨタヨタと浴室まで行く。

 

シャワーを浴びて

少し、はっきりしてきた頭で

今日の日程を確認した。

 

まずは、朝食だ。

 

1階のレストランでみそ汁を口にする。

ほっと息をついた。

 

午前中は、買い物の予定だった。

 

スマホを確認するとテヒョンから

メッセージが入っているのに気づいた。

 

確か、今日の夜から

実家に帰ると言っていた。

 

しばらく、帰ってなかったみたいだし。

愛犬の“ヨンタン”にも会いたいって。

 

幸せな夜になりますように。

 

「ごちそうさまでした。」

 

手を合わせ、1度部屋へ戻った。

 

支度を終え、

久しぶりに口紅を塗る。

 

何もしない私をみると、

腹がたつと怒られるからだ。

とりあえず、

待ち合わせの場所へ向かった。

 

   

 

 

 

「三上さん。」

 

待ち合わせたカフェ。

オープンテラスの席に座る

男性に声をかける。

 

眼鏡をかけ小説を読んでいた彼が

顔を上げる。彫りが深い整った顔立ち。

 

肘下まで袖を折り返した

白いリネンシャツに黒いパンツ。

 

シンプルな服装にもかかわらず、

そのスタイルの良さはわかった。

 

周りの女性達が

横目で彼を見ている。

 

何かの撮影みたい・・

 

組んでいた長い脚をほどいて

立ち上がった彼は、迷う事なく

私に近づき、次の瞬間、

ギュッと私を抱きしめた。

 

周囲で息を呑む声が聞こえた。

 

絵になる男性が女性を抱きしめる。

 

次はどうなるのか、

一気に視線が集中するのがわかった。

 

恥ずかしさと、

加えられる圧に耐えかねて

彼の肩をタップする。

 

ふっと力が抜かれ、体を離した彼は、

私の顔を見て微笑んだ。

 

「いやぁだぁ、もう、

元気だったのおぉぉぉ。

心配したんだからぁ。」

 

・・・。

 

とても大きな声だった。

また、周りが息を呑むのがわかった。

 

私が、小説を書き続けると決めた夜、

彼は私に伝えた。

自分は、男性しか愛せないと。

フリーズする私に彼は笑いながら、

気持ち悪いかと聞いてきた。

きっと、そんな反応を

たくさん見てきたのだろう。

でも、それを恥じる事も

隠す事もしなかった。

自己紹介の1つとして伝えたのだ。

 

 

「・・大丈夫です。元気。」

 

圧から逃れた私は、どうにか返事を返す。

 

笑顔のまま頷く彼は、

私の足元から顔まで視線を流した。

 

そして一瞬で笑顔を消すと

大きなため息をつく。

 

「はぁぁ、もう、本当にすこぶるダサイ。

いつも、言ってるでしょう。養殖だってね、

良いのは、いっぱいいるんだから。

天然ものってだけで

あぐらかいてちゃダメなんだから。」

 

あぐらをかいていた訳でもないし、

何もしてこなかった訳ではなかったが、

やっぱり怒られた。

 

とりあえず、・・と彼は続ける。

 

「仕事の話は夜にするとして、

ショッピングを楽しみましょう。ねっ」

 

腕を組んだ状態で、歩き出す。

 

私達、どんな風に見えるんだろう。