【21:10】

 

 ◇ Red

 

月曜日から降り続く雨。

 

今日は7月18日。

 

 

 

11年前の今日、私は家族を失った。

 

いくら時間が経っても、

この日を乗り越える事は

大きな労力を伴った。

 

一番つらいのは、翌日の朝。

 

独りで目覚め、

あれが夢ではなかったと

まざまざと思い知らされる。

 

 

 

 

今日は、まだ眠る事もできない。

 

雨が打ちつけ、雷が鳴り響く。

 

ヘッドフォンをして、

肩からかけたガウンの中に

体を収めるようにしてソファに座り

できるだけ、大きな音で

彼らのライブ映像を観る。

 

たくさんの光の中、

ここでみせた姿からは想像できない

パフォーマンスをみせる彼ら。

 

プロとして、最善をつくし、

最高の時間をファンと共有する。

 

圧巻のステージ。

 

そして、彼らも本当に幸せそうだ。

 

思わず、微笑んでしまう。

 

テヒョンの顔が映し出された。

 

スマホを確認する。

 

22:10

 

 

カトクは入っていない。

 

「キム・テヒョン氏。

 雷、怖いんですけど・・。」

 

水曜日からMVの撮影に入ると言っていた。

しばらく、帰ってこれないかも・・と。

 

「頑張って」とカトクを送ったのに・・。

 

 

 

 

 

その時、フッと電気が消えた。

一瞬にして暗闇が私を覆う。

 

・・・・。

ドクンと胸が鳴り、喉の奥がつまる。

 

停電だった。

 

別に初めてではない、

もう少ししたら復旧するはずだ。

 

でも、今日は・・

 

さっきまで雨と雷の音を

遮ってくれていた彼の声も聞こえない。

 

近くにあるはずのスマホを探すが

震えだした手は思うように動かなかった。

 

ブレーカー・・そう思って、

ヘッドホンを外し、這うようにして、

リビングの出入り口まで向かう。

 

その時、雷が大きく響いた。

 

両手で耳を覆う。

 

止まってしまった体は動かなくなった。

 

力が入らず、

じわりと汗がにじむ。

 

暗闇の中、聞こえ続ける時計の音。

時間が戻されていくような気がした。

 

乗り越えてきた日々が

崩れてしまうような。

 

呼吸が浅くなる。

             

「・・やだ。」

 

1つ、口をついた言葉は、

次々と押さえていた気持ちを連れてきた。

 

「・・置いて行かない、で。

1人にしないで、やだよ・・。」

 

体の震えが止まらない。

 

みんなが見えなくなる。

 

みんな、私の周りからいなくなる。

             

 

 

 

「・・たすけて・・。」

 

誰か・・助けて

 

 

その時だった。

 

        ドン ドン ドン

 

玄関の扉を叩く音が聞こえた。

 

 

いるはずない。

でも、なぜかテヒョンが

そこにいるとわかった。

 

弾かれたように玄関へ行く。

 

扉を開けると、ずぶ濡れで、

息をきらした彼が立っていた。

 

視界が歪む。

 

せきをきったように

涙が溢れてきた私を

彼はしっかりと抱きしめた。

 

早鐘のようにうつ彼の心臓。

 

腕の中で

私は子供のように声を上げて泣いた。

 

彼は、父親が子供をあやすように

泣きじゃくる私を抱きしめた。