「歯周病に関連する疾病」その2
歯周病と関連の深い疾病として、前回「ED」「バージャー病」「糖尿病」を紹介しました。今回はその続きです。
アルツハイマー
厚労省によると、認知症高齢者数は2012年の時点で全国に約462万人います。そして2025年には認知症患者が700万人を超えると推計しています。これは、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患するという計算にあたります。
認知症におけるアルツハイマーが占める割合は6割くらいあります。
人体は歯周病菌に感染性歯周病となったときには、自己防衛として炎症反応を起こします。重度の歯周病患者では、そうでない患者に比べて、血中の炎症性物質の濃度が高値を示すことが分かっています。歯周病は長期に渡って体全体に炎症が生じている状態、「慢性の炎症性疾患」ということができます。
アルツハイマーは、脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが原因として知られています。アミロイドβが脳内に蓄積すると、脳の炎症に関わる細胞が活性化されて脳内に炎症反応が生じ、結果として正常な神経細胞が破壊されて脳の萎縮が起こるとされています。つまり、アルツハイマーは「脳の炎症」が原因で起こる病気なのです。
すべての物質は脳内に入る際に、血液脳関門と呼ばれる「関所」を通過しなくてはなりません。これは、脳へ血液中の有害な物質が入らないようにして、神経細胞を防御する機構です。当然、人体に細菌感染が生じた際に作られる炎症性物質も、容易には脳内に侵入できないわけですし、歯周病菌も入ることはできないはずです。
ところが、長期に亘って血液脳関門が攻撃を受けると、次第に正常に機能できなくなってしまし、炎症性物質が脳内に侵入してしまうことがあるのです。
口腔内に潜んでいるはずの歯周病細菌が、脳内へ侵入していることがあるのです。アルツハイマー病患者の脳から歯周病の原因細菌が見つかっているのです。
歯周病菌が脳内に入ることによって、アルツハイマーにおける脳の炎症がさらに増幅されるという状況になって、病状が進行することになるのです。
しかし、今のところ、歯周病による炎症反応だけで、アルツハイマーが発症するとは考えにくいとされています。歯周病菌は、認知症の発症時期を早めたり、認知障害の程度を強めたり、進行を早めるという作用があると考えられています。
逆のいい方をすれば、歯周病治療や口腔ケアをすることで、アルツハイマーの発症予防や、症状の軽減、進行を抑制できる可能性があるということになります。
アルツハイマーにおいて歯周病が問題となる理由が、もう一つあります。それは、「歯を失う」というということです。物を「噛む」という行為が脳への刺激となって脳の活動において極めて重要働きをします。
歯を失い物が噛めなくなると、脳への刺激が減少して脳の働きに影響が生じ、その結果として、アルツハイマーのリスクが増してしまうのです。
アルツハイマーの高い発症率を示す年齢層は、70歳代です。しかし、アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβの脳への蓄積は、発症する10~15年以上前から始まっているのです。そのため、認知症の発症予防のためには、一つの方法として、若いころからの口腔内のケアが有効です。
50歳代の皆さん、歯周病には気を付けましょう。