写真家入江泰吉の作品を収蔵·展示する奈良市写真美術館(高畑町)で、入江の代表的な風景写真を集めた「大和路三十三景」が開かれている。「第6回入江泰吉記念写真賞受賞作品展」も同時開催中。3月29日まで。

 この美術館は新薬師寺の西隣りに位置し、1992年4月にオープンした。入江はその3カ月前、86歳で亡くなっており、開館を見届けることはできなかった。設計は黒川紀章。
 「大和路三十三景」の作品数はタイトル通り33点。入江は大和路についてこんな言葉を残している。「風光明媚な景観とはいいがたい。だが、そのさりげない景観に、風景の『風』の趣が醸されている」
 入り口正面や案内チラシで取り上げられているのが東大寺の「二月堂春宵」。灯されたばかりの燈籠の中で今が盛りと桜が咲き誇る。展示作の中には他にも「談山神社木蓮」「牡丹の長谷寺」など、社寺の堂塔と木々の花の取り合わせ写真が目立つ。
〈入江写真賞の応募は前回の1.6倍!〉

 入江泰吉記念写真賞も2年に1回開かれており、今回はオンラインでの応募に切り替えた結果、前回の1.6倍の98点が寄せられた。その中から選ばれた受賞作は中古樹(ちゅうこたつき)さんの「路傍の光」。             

 高校の入学祝いでカメラをブレゼントされたのが写真の世界にのめり込むきっかけになったという。日大芸術学部写真学科卒業後、筑波山を望む出身地の茨城と就職先の東京を行き来するうち、美しい故郷の“光”を再発見、「絶景ではないが、暮らしの中の日常的な風景」を切り撮ってきた。作品は82枚組みで、うち66点を展示中。

 同時に「第6回ならPHOTO CONTEST受賞作品展」も開かれている。最優秀賞に当たる「なら賞」を受賞したのは笠井忠さんの「若草山焼きの日」。市街地の無数の灯りの奥で進行中の伝統行事の山焼き。静と動の対比が印象深い幻想的な作品だ。

 日本経済新聞社賞には日岡弓枝さんの「春呼ぶ」、特別賞には薬丸冬哉さんの「面会」が選ばれた。後者は市街地を徘徊する鹿たちとその様子を金網のシャッター越しに凝視する飼い犬2匹の姿を撮った作品。それぞれの表情が実に面白い。
 展示会場の入り口そばには入江泰吉の胸像。いつも温かい眼差しで出迎え、そして見送ってくれる。