「耽る」(ふける)という言葉がある

これは快楽に身を委ねている状態のことだ。


たとえば「読書に耽る」などという。

創作や史実に基づいた本を読み、自分以外の体験を我がことのように楽しむ。


「空想に耽る」などともいう。

現実とはかけ離れた理想の姿を思い描いて、ニヤリと笑ったりする。


この空想を一歩進めたのが理想であり、大願である。

己の空想を現実世界に持ち込んでしまう。

自分の思う通りにこの世界のあり方を変えるのだ。


空を飛びたい、深い海に潜りたい。

快適に遠くまで行きたい。

無限の知識を得たい。

人類はこれまでに多くの大願を成してきた。


ただし大願も快楽がなければ続かない。

この願いが叶った自分を想像した時に、大きな喜びがなければならない。


この大願がもたらす快楽は、本能とは次元が違う喜びである。

この大願を持つ喜びこそが、真なる人の喜びである。

人の形をした本能だけの獣から、人を人たらしめる鍵である。


世のために働く喜び。

これが人らしさの根源である。


ただしその大願が現実世界に沿わないと、周囲からの反発を受けて、かき消えてしまう。

賢者とはこの空想と現実のすり合わせが上手だからこそ賢者なのである。

賢者は現実に存在していない高い理想を掲げ、この世界を変えていく。