前回は報恩について述べた。
だが推譲の意味は一般には通じないかもしれない。
「推し譲る」と書いて「すいじょう」と読む。
これは自分の持ち物を喜んで人に与えること。または目先ではなく未来のために使い切らずに取っておくことである。
物事をその場で、一人で、楽しみ尽くさない。
このところ廃れてきてはいるが、日本人には昔からおすそ分けの文化があった。
困ったときはお互い様と言って、助けあう関係は、こういう譲り合いから始まる。
楽しいこと、嬉しいことは他者と分け合う。
他者に自分の所有物を与えることは、一見では損したように見える。だからケチな人は他者に物を与えることを嫌う。
だがそれはその場限りの見せかけのことで、他者に与えたものは銀行通帳のように天に記録されている。
困りぬいたときに、手を差し伸べてくれる人が現れるのは、推譲の習慣がある人だ。
これを知らないと、いつまでも問題も利益も一人で抱え込む、ケチで孤独な老人になる運命が待っている。
自分が与えられたいなら、まず自分から与えることだ。
自分が汗水を流して得たものを喜んで人に与えてみる。
推譲を何度も行うことで、人は成長する。