第42回【日刊ゲンダイ掲載】認知症の中等症リハではなぜ「楽しんでできること」を探すのが重要なのか | 大泉学園複合施設オフィシャルブログ

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大泉学園複合施設は、練馬区の地域包括ケアモデルの中核を担うことを目指した病院・施設です。

日刊ゲンダイにて毎週火曜日夕刊で掲載されています

酒向院長の記事をブログでも毎週お知らせいたします。

 

第42回

~認知症の中等症リハではなぜ

「楽しんでできること」を探すのが重要なのか~

 

認知症を発症後、軽症の段階から中等症に進行した患者さんに対し、

できるだけ生活が困らないようにするために実施するリハビリが「中等症リハ」です。

中等症になると、記憶障害が加速して新しい出来事が覚えられなくなってきます。

記憶が保てなくなるため、身の回りのことができなくなって日常生活に支障を来すようになります。

当然、介護をしているご家族の負担も大きくなります。

そんな介護者の介助量を少しでも減らすために、中等症リハを行うのです。

予防リハや軽症リハで、筋力や体力を向上させるために実施する身体トレーニングは、

中等症の患者さんには簡単ではありません。

だからといって、何もせずにずっと寝かせていると、そのまま寝たきりになってしまいますし、

必ず肺炎や尿路感染症を発症してきます。

 

長期間にわたって動かず寝てばかりいると、肺の活動量が減って弱っていきます。

さらに、寝ていると口の中の清潔が十分に保たれにくくなり、口腔内で細菌がより多く増殖します。

その結果、口腔内の細菌が気管から肺へと吸引され、肺炎を発症するのです。

 

また、起き上がらないと尿をしっかり出し切れないため、

長期臥床では膀胱内に尿がたまりやすくなり、そのまま細菌が増殖して尿路感染症を引き起こします。

オムツをするなどで陰部が不衛生になりやすい環境の場合はなおさらです。

ですから、中等症の患者さんでも、

どうにかして「座らせる」「立たせる」「歩かせる」ことをしながら、

コミュニケーションをとったり、身の回りのことはできる限り自分でするように取り組んでもらいます。

 

 

■1日のスケジュールに組み込む

そこで重要なのが、「本人ができること=やりたいことを探して、それを繰り返しやってもらう」ことです。

チェックシートなども利用しながら、患者さんがどんなことに興味や関心を持っていて、

どんなことなら楽しんでできるのかを把握したうえで、

より楽しんでやってもらえるような活動環境を整えるのです。

その患者さんがどんなことをすれば楽しめるのかは、人がそれぞれ歩んできた生活環境で違います。

どこまで読めているかはわからなくても本を見ているのが楽しいという人もいれば、

絵を描く、習字をする、手芸をする、盆栽のように何かを作る作業が楽しいという人もいます。

 

仮にそれが満足な出来栄えではなかったとしても、

本人が楽しいと感じて取り組むことができるのならそれでいいのです。

楽しいと感じることをいつでも行える環境を構築し、

それを定期的に繰り返しやってもらうことにより、本人のできることが少しずつ増えていきます。

それが、周囲の介護者の介助量が減ることにつながります。

 

それぞれの患者さんが楽しいと思ってできることを把握したら、

それを行う時間を1日のスケジュールの中に定期的に組み込んで実践してもらいます。

 

本人がやった行為に感謝を伝えると、本人のやる気はさらに上がります。

施設でも自宅でも、認知症患者さんのリハビリでは、

1日単位のスケジュールと1週間単位のスケジュールをきちんと決めることが大切です。

 

決まった時間にどこに行くのか、何をするのかが決められていると、本人は知らぬ間に気持ちが楽になります。

また、スケジュールが決められていると、

「今日やることがある=自分の役割がある」といった自己効力感を維持することにつながります。

それが、不安を軽減し、認知機能の低下やうつ症状の進行を抑制するために重要なのです。

 

繰り返しになりますが、中等症リハでは、昼間はしっかり起こし、

夜はきちんと寝てもらい、起きている昼間には楽しんでできることをやってもらう。

それによって、少しでも家族の介助量を減らしていくのです。 

 

 

掲載元:

日刊ゲンダイDIGITAL