日刊ゲンダイにて毎週火曜日夕刊で掲載されています
酒向院長の記事をブログでも毎週お知らせいたします。
第44回
~アルツハイマー型認知症のリハビリで
注意すべきポイントは?~
認知症を発症後のリハビリは、
病気の種類と特徴を把握したうえでアプローチすることが大切になります。
今回はアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症について取り上げます。
アルツハイマー型は脳の変性による認知症の70%を占めていて、
脳画像を見ると前頭葉と頭頂葉--特に側頭葉の海馬が大きく萎縮しています。
海馬は短期記憶をつかさどっているため、
最近の出来事を記憶する力が低下して、
自分が何かを忘れていることも自覚できないのが特徴です。
そうした記憶障害だけでなく、
アルツハイマー型の患者さんに特に特徴的なのが「取り繕い」という反応です。
相手から何か話題を振られたときなどに、
それを忘れてしまっているにもかかわらず
話を合わせて覚えているかのように振る舞い、
近くにいる知人に「そうだよね」と同意を求める傾向があるのです。
取り繕いは、自分の記憶障害を知られて恥ずかしい思いをしたくないといった
自尊心を保とうとする気持ちから現れるといわれます。
ですから、取り繕う患者さんはアルツハイマー型だとすぐにわかります。
また、アルツハイマー型の患者さんは精神的な症状の特徴から
「無関心になる=陰性症状」「穏やか」「怒りっぽくなる=陽性症状」
という3つに大きく分けられます。
リハビリを行う際はそれぞれの傾向に合わせて進めなければ
トラブルの原因になってしまいます。
同じアルツハイマー型でも、
いつも穏やかでニコニコしている“ボケ老人”であれば好かれますが、
いつも興奮して怒っている方は嫌われてしまいます。
何事にも無関心でまったく反応がない方も周りは困ってしまいます。
ですから、その症状評価をして、
まず環境調整と関わり方によって陽性と陰性が改善するように試みます。
しかし、それが難しい場合は、
陽性や陰性の方を薬による治療で
「穏やか」な状態までコントロールする必要があります。
ただし、陽性と陰性では真逆の治療が必要です。
すぐに興奮して怒り出す陽性の方は前頭側頭型認知症の病態を合併されている方が多く、
漢方薬や向精神薬を使って穏やかになるようコントロールしていきます。
一方、無関心な陰性の方には、反応が出るように抗認知症薬を調整します。
抗認知症薬は基本的に運動機能や精神機能を刺激してあげる作用があり、
陽性の方に使うとさらに興奮して怒りっぽくなってしまうので、
同じアルツハイマー型でも薬の使い方には注意しなければなりません。
アルツハイマー型の患者さんは、
このように治療で「穏やか」な状態にコントロールしたうえで、
可能な限り「座らせる」「立たせる」「歩かせる」
「コミュニケーションする」「楽しいと思うことを継続してもらう」といった
認知症リハビリを実践していくのです。
■レビー小体型は不調が出ないタイミングで実施
レビー小体型認知症は、
脳の神経細胞に異常なタンパク質であるレビー小体が蓄積することで起こる認知症で、
認知症の約20%を占めています。
脳画像を見ると、脳幹から小脳、後頭葉の辺りが軽度萎縮しています。
レビー小体が脳幹に現れるとパーキンソン病を引き起こすので、
パーキンソン病が加齢とともに悪化してレビー小体型になるようなイメージです。
そのため、パーキンソン病と同じような、脳内で不足するドーパミンを補ったり、
ドーパミンの遊離を促進したり、
神経回路の働きを補正する薬を使った治療が行われます。
レビー小体型も、アルツハイマー型と同じように興奮型と無関心型があり、
抗認知症薬と抗精神薬の使い分けが必要です。
また、レビー小体型では幻視や幻覚を見るという特徴的な症状が現れます。
これは、「昼間は起きて、夜は寝る」という生活リズムが崩れると起こりやすくなるので、
きちんと生活リズムを整えてあげることが重要です。
さらに、レビー小体型は一日の中で症状がかなり変動するという特徴があります。
起立性低血圧や体温調節障害などの自律神経症状も出てくるので、
不調がないタイミングに合わせてリハビリを実施しなければいけません。
とりわけ歩行障害が進行する場合が多いことから、
しっかり歩けるようにするための歩容と筋肉トレーニングが大切になります。
認知症リハビリは、
「座らせる」「立たせる」「歩かせる」「コミュニケーションする」
という基本となるポイントは共通していますが、
病気の種類に応じたアプローチが欠かせないのです。
掲載元:
日刊ゲンダイDIGITAL