けんじいは子供の頃から「早生まれのやつは頭がいいなあ」と思っていた。まずは隣のシゲちゃん。けんちゃんより10か月も下の3月23日生まれなのに、小学生1年生の頃からけんちゃんに難しい質問をしていた。「けんちゃん、日本で一番偉い人はだーれ?」、「天皇陛下」、「違う!吉田茂」。数か月後同じ質問をされる。「吉田茂」、「違う!もう鳩山一郎だよ」という具合でいつもやられていた。

 

 次はのちに生涯の友人になる涯友氏。彼も3月生まれ、吉永小百合と同じとか1日違いとか言っていた。話していてけんじいの気づかないことをいっぱい指摘する。頭がいいなあと思っている。他にも今思ってみるとそうかあいつも、あの子も早生まれだったかと思ったことがたくさんある。

 

 

 けんちゃんが育った家はどうだったかと言うと、けんじいは5月生まれで父は4月初め、妹と弟は12月といずれも1〜3月に近いが、そのものずばりではない。正真正銘の早生まれは母の1月27日だけだ。母は父が生きているうちは「お前は顔も悪いが頭も悪い」みたいに散々言われていたが、近年よく聞くと「女学校で数学と裁縫は勉強しなくても頭に入った」と言うから、今でいうリケジョで頭がよかったのではないかと思う。天才的に頭の良い弟は文系に強い父とリケジョの母の両方を受け継いで、それに相応しい難関士(さむらい)業をしている。

 

 そうだ、モーツアルトが母と同じ1月27日生まれなら、芸術面とはいえスキルを磨く演奏者よりも総合的な頭の良さがモノを言う大作曲家は絶対に頭がいいはずだと誕生日を調べてみた。以前読んだ三枝成章の「大作曲家たちの履歴書」の上巻に載った人を検索する。

 

 

 モーツアルト1月27日、シューベルト1月31日、ベートーベン(不詳ながら)12月16日頃、バッハ3月31日、チャイコフスキー5月7日、ベルリオーズ12月11日、メンデルスゾーン2月7日、ショパン2月22日または3月1日、シューマン6月8日、リスト10月22日、ワーグナー5月22日である。なんと11人中5人が早生まれ。驚くではないか。12月を仲間に入れると過半である。

 

(三角大福中のうち3人が早生まれとは知らなかった)

 

 日本の総理大臣は頭がいい代表事例になるか疑問だ。何しろ近年アベ、スガ、キシダといかにも頭の悪そうなのが相次いでいるからだ。もちろん彼らは早生まれではない。だが戦後に限って一応調べると、鳩山一郎と孫の由紀夫を始め、佐藤栄作、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、竹下登、海部俊樹、細川護煕、村山富市、小泉純一郎まで34人中12人がそうだった。意外だったがとにかく35%である。

 

 最後に頭がいい極め付けは何と言ってもノーベル賞受賞者だろうと日本人だけだが調べた。すると何と、これまた湯川秀樹から始まって朝永振一郎、江崎玲於奈など物理学中心に28人(カズオ・イシグロを除く)中12人つまり42%が早生まれだった。物理学に限ると12人中7人と58%を占めるのは偶然とは思えない。

 

 

 日本人も世界中の人も、1年を通して平均的に生まれるかどうか知らないから早生まれが本当に25%を占めているかどうか確認していないが、有意な差だと言えるのではないか。しかしネットで見ても「早生まれは不利」という記事ばかりで、けんじいのような説を唱えている人はほとんど見られない。

 

 けんじい説の論拠はないが、妊娠時期の3〜5月が人類にとって勢いの増す季節だからとか、早生まれは幼児期に劣勢なので「何クソっ」と頑張るからではないかと思う。なおけんじいは2人目の子どもを作る時、この理論?を実践してみた。見事早生まれが誕生し、弟とは分野が違うものの最短で難関さむらい業に就いている。

 

 ついでに自慢めく話で恐縮だが、父の誕生日を詳述すると本当は4月3日だったのを家庭が貧しかったから早く就学するように4月1日付にされ早生まれで育った。名古屋の中堅印刷会社でセールスマンをしていたが、小卒なのに取引先の中部電力の担当者から「あんた東大出かね?」と言われたと笑って話してくれたことがある。国語に強い父は、印刷の校正ミスはもちろんだが、原稿のミスまで指摘して中部電力にはゴロゴロいる東大卒にしばしば感謝されていたからだ。