「予約困難」という肩書きだけで、店を評価したりしない。

本当に価値がある店なら、予約の取りづらさなんて食べ終えた後にはどうでもよくなる。

約2年待ち。

薪火で焼き上げる焼鳥。

そして、予約困難店として知られる鈴田式、時限堂、atamiと同じ末富グループ。

期待値は自然と上がる。

赤坂の繁華街。

コインパーキングの奥にある、倉庫のような無機質な入口。

“火災受信盤”と書かれたインターホンを押し、扉が開くと地下へ続く階段が現れる。

その先にあるのが、薪鳥新神戸だ。

地下とは思えないほど静かで、黒を基調とした空間の奥では、二基の炉窯に薪火が揺れている。

席へ着く前から、香ばしい薪の香りがゆっくりと鼻を抜け、この店の主役が火であることを教えてくれる。

今回いただいたのは、おまかせコース(27,000円)。

最初の一本、高原比内地鶏の腿肉で、この店の実力を理解した。

薪火で焼き上げられた皮目は薄く香ばしく弾け、その内側には驚くほど多くの肉汁が閉じ込められている。

噛むたびに比内地鶏の旨味が広がるのに、脂は重くない。

正直、この一本だけでも来た価値があった。

京都高坂鳥の胸肉のたたきは黄身醤油で。

白レバーはごま油だけ。

余計な味を重ねず、素材そのものを味わわせる潔さが印象的だった。

鳥節を惜しみなく纏わせたジャンボマッシュルーム。

名古屋コーチンの砂肝。

一番出汁のお椀。

長州鶏のレバー。

自家製ハリッサを添えた胸肉。

葛葉素麺で一度口の中を整え、ふくらはぎ、トーストとリエット、ソリとオビ、比内地鶏の手羽先ねぎまと続く流れも実によく考えられている。

どの串にも共通していたのは、薪の香りを主張し過ぎないことだった。

薪火は前へ出るためではなく、鶏を引き立てるために使われている。

その火入れの繊細さは、一串一串からはっきりと伝わってきた。

そして、この店を予約2年待ちへ押し上げている理由を決定づけたのが、名物の焼そぼろご飯だった。

炊きたてをそのまま味わった後、ジンジャーソース、かんずりねぎ、万願寺とうがらしと鶏のパウダー、最後はうずら卵。

一杯のご飯でここまで表情が変わるのかと驚かされる。

締めなのに単なる締めではない。

コース最後の主役として成立していた。

東方美人茶で口の中を整え、果実飴、自家製燻製生キャラメルで幕を閉じる。

ここまで一切妥協がない。

めちゃくちゃ美味かった。

予約困難だから価値があるんじゃない。

一本の焼鳥、一皿のご飯、一杯のお茶、そのすべてを積み重ねた結果として、「約2年待ち」という答えになっている。

27,000円という価格も、食べ終えた頃には高いとは感じなかった。

またあの薪火の前に座りたい。

そう思わせるだけの理由が、この店には確かにあった。

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しゃぶしゃぶは、どこの店でも大きな流れは似ている。

だからこそ差が出るのは、肉の等級でも食べ放題でもない。出汁が最後まで飽きずに楽しめるか。そして肉、野菜、締めまでを無理なく味わえる構成になっているか。そのバランスを確かめるため、お台場の「しゃぶしゃぶ 吟半」を訪れた。

店内は和を基調とした落ち着いた空間。個室を中心とした造りで、お台場の賑わいとは少し距離を置きながら食事を楽しめる。

先付け二種、お魚、自家製茶碗蒸しと続き、序盤は軽めの構成。鍋が始まる前に少しずつ胃を整えていく流れで、コース全体にも自然なリズムがある。

続いて木箱に盛られた野菜と茸、自家製の海老つみれ。海老つみれから旨味が加わり、野菜の甘みも少しずつ出汁へ溶け込んでいく。鍋の味が少しずつ変化していく過程も楽しめる。

主役は国産牛上ロースときなこ豚ロース。

国産牛上ロースは、軽く火を通すだけで柔らかく、脂も重たさより旨味が先にくる。きなこ豚ロースはしっとりとした食感で、脂にはほんのり甘みがある。牛と豚で食感や味わいが異なるため、最後まで単調になりにくい。

締めは、肉や野菜の旨味が溶け込んだ出汁でいただくきしめん。食後は抹茶わらび餅で口の中をさっぱりと整え、コースを穏やかに締めくくる。

しゃぶしゃぶは、特別な演出がなくても、出汁と素材、そしてコース全体の流れが整っていれば満足感は十分に生まれる。吟半も奇をてらうことなく、その基本を丁寧に積み重ねた一軒だった。

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中華は大皿で賑やかに食べるもの。そんな固定観念を覆す店がある。一皿ごとの完成度を高めながら、少量多皿で最後まで食べ疲れさせない。その実力を確かめるため、恵比寿の「CHAO CHAO」へ足を運んだ。

店内はモダンで洗練されながらも、どこか肩の力が抜けた心地よさがある。本格中華の技術を軸にしながら、日常の食事として自然に楽しめる空気感。この店の目指す世界観は、料理が運ばれる前から伝わってくる。

最初に供されるクラゲのネギソースは、その方向性を一皿で示してくれる。コリコリとした力強い食感に、香り豊かなネギソースが重なり、爽やかな余韻を残す。前菜で終わるのではなく、この後に続く料理へ舌を自然に導く導入として機能していた。

名物の合鴨北京ダックは、この店を象徴する一皿だ。一般的な北京ダックとは異なり、合鴨ならではの凝縮した旨味と程よい脂が際立つ。香ばしく焼き上げられた皮、みずみずしい野菜、甘味噌が薄餅の中で一つに重なり、一口で完成されたバランスを生み出している。

エビチリ金沙粉がけは、王道にひと工夫を加えた一皿。弾力のある海老に濃厚なチリソースが絡み、金沙粉の香ばしさとほのかなザクッとした食感が奥行きを与える。ただ辛いだけでは終わらず、旨味を幾重にも積み重ねてくる。

彩りピーマンの青椒肉絲では、シャキッとした野菜の食感と牛肉の柔らかさが絶妙に調和する。続く青菜と貝柱の強火炒めは、強火だからこそ引き出せる香ばしさと、青菜の瑞々しさ、貝柱の凝縮した旨味が一体となり、中華の火入れの技術を改めて実感させてくれた。

点心にも一切の隙がない。やみつき肉汁の水餃子は、もちもちとした皮の中から溢れる肉汁に、XO醤ソースの深いコクが重なり、後を引く味わいへと昇華する。上海蟹小籠包は、薄い皮の中に閉じ込められた熱々のスープと上海蟹の濃厚な旨味が口いっぱいに広がり、一口サイズとは思えない満足感を残した。

終盤は麺と米、それぞれ異なる魅力で締めくくる。名物チャオメンは香ばしく焼き上げた麺を崩しながら食べ進めることで、パリッとした部分と餡をまとった部分の食感の違いが楽しめる。五目チャーハンは米一粒一粒がほどけるように炒められ、具材の旨味をしっかりとまとわせた完成度の高い一皿。そして最後を飾る蟹肉と卵白の淡雪スープは、その名の通りふわりとほどける口当たり。蟹の優しい旨味が全体を包み込み、コースを穏やかに締めくくってくれた。

この店が目指しているのは、本格中華を堅苦しい特別な料理にすることではない。確かな技術を土台に、一皿ごとの完成度を積み重ね、少量多皿だからこそ最後まで美味しく食べ切れる流れを作ること。その組み立てがあるから、食べ終えた後に残るのは満腹感だけではない。「また最初からこの流れを味わいたい」と思わせる、心地よい満足感だった。

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