料理は紹介するためではなく、出汁という一本の軸を証明する材料として使っている。
店名は、その店の覚悟が一番表れる。
恵比寿だしと。
ここまで潔く掲げる以上、中途半端な出汁では成立しない。
期待値は自然と上がるし、少しでも軸がぶれれば、その名前が一番の弱点になる。
だから俺は、一皿目で答えを探した。
生うにとトロ湯葉のうまだしジュレ。
最初に舌を支配したのは、生うにでも魚卵でもない。
琥珀色の出汁ジュレだった。
湯葉のまろやかさを包み込み、生うにの甘みを引き立て、魚卵の塩味まで一つの味にまとめてしまう。
素材を主張させる料理ではない。
出汁が素材をまとめ上げる料理だった。
続く土瓶蒸しで、その印象は確信へ変わる。
蓋を開けた瞬間、立ち上る香りだけで期待値が上がる。
まずは出汁だけを味わう。
そのあと具材をいただく。
この順番に意味がある。
店が一番伝えたいものを、食べる順番まで含めて設計しているからだ。
この時点で気付く。
この店は出汁を使って料理を作っているんじゃない。
出汁を基準に料理を組み立てている。
だから一品料理にも軸がぶれない。
鴨南蛮そばから着想を得たポテトサラダは、鴨の旨味に山椒が静かに輪郭を与える。
出汁大根の唐揚げは、薄衣の軽さのあとに、芯まで染み込んだ出汁がじゅわっとあふれ出す。
煮るでも焼くでもなく、揚げることで出汁を印象に残す発想が面白い。
山盛りのタルタルで目を引くチキン南蛮も、見た目だけでは終わらない。
箸を入れた瞬間にほどける鶏肉の柔らかさがあるから、濃厚なタルタルが最後まで重くならない。
派手さの裏側に、丁寧な仕事が隠れていた。
そして、この店を象徴するのが本まぐろの漬け丼だった。
特製ダレに漬けた本鮪を味わったあと、目の前でサイフォンから熱々の出汁が注がれる。
立ち上る香り。
ゆっくりほどける鮪の脂。
一杯の丼が、目の前で出汁茶漬けへと変わっていく。
演出を見せたいわけじゃない。
熱で味が変わり、香りが変わり、料理そのものが完成する瞬間を体験させたいのだ。
締めの蕎麦まで、その考えは徹底していた。
週替わりの鴨だし白湯つけ蕎麦は、最後の一口まで熱を失わない。
もり蕎麦は六種類のつけだれによって、一枚の蕎麦がまったく違う表情を見せる。
トリュフの香り。
梅の酸味。
アカモクの粘り。
坦々の刺激。
ゴマ納豆の濃厚なコク。
どれも奇抜さを狙ったものではなく、出汁という軸の上で成立していた。
料理が変わっても、印象がぶれない理由がここにある。
この店で記憶に残ったのは、生うにでも、本鮪でも、蕎麦でもなかった。
一皿ごとに姿を変えながら、最後まで料理の中心にあり続けた出汁だった。
店名を見たときは、自信の表れだと思った。
食べ終えたあとには、それが覚悟だったことに変わっていた。
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