宮原誠一の神社見聞牒(146)
令和2年(2020年)07月03日

No.146 光と影の奈留多姫を祀る福岡県糸島の産宮神社


「No.145奈留多姫不在の福岡県篠栗町の諏訪神社」の奈留多姫の続きです。
奈留多姫(なるたひめ)は諏訪大社の祭神・建御名方神(たけみなかたのかみ 建南方)の妃で、諏訪にあっては、八坂刀売神(やさかとめのかみ)と名を変えられました。
福岡市西区にあっては、奈留多姫と名乗られ、鵜草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)の妃でした。奈留多姫は天忍穂耳命の御子・天忍日命と雨宮姫との間の姫君です。
「奈留多姫」も「八坂刀売」も、この名称は『記紀』には出て来ません。

福岡県糸島市波多江駅南に奈留多姫を祀る産宮神社(さんのみやじんじゃ)が鎮座です。
奈留多姫の名称で祀る神社は、糸島市波多江の産宮神社が唯一ではないでしょうか。
産宮神社の奈留多姫命は安産守護の神様として広く崇敬されています。
奈留多姫は懐妊に当たり、胎教を重んじ、豊玉姫、鴨玉依姫の両神の前にて、「月満ちて生まれん子は端正なれば永く以て万世産婦の守護神ならん」と誓い出産に臨まれています。

産宮神社の社説とは異なりますが、
鵜草葺不合命と奈留多姫の間の御子がクマソタケル(後の川上タケル)と豊姫(ゆたひめ)です。
建御名方と奈留多姫の間の御子が息長宿禰です。息長宿禰と葛城高額姫の姫が息長足姫(神功皇后)で、息長足姫は開花天皇の皇后です。
『記紀』では、孫娘の息長足姫は開花天皇の皇后ということは伏せられますが、神功皇后で有名です。

息子のクマソタケルはクマソの頭領となって天皇家に乱を起こされ、ヤマトタケルに成敗されます。
兄の川上タケルの反乱の後始末で、妹の豊姫は汚名を灌ぐため大変苦労され、天皇家(開花天皇)に尽くされます。孫娘の息長足姫が開花天皇の皇后となられと、豊姫は神功皇后よりも年上ですが、妹として活躍されます。

奈留多姫の子息は天下の反逆者・川上タケルであり、孫娘の息長足姫は開花天皇の皇后となられ、奈留多姫は光(栄光)と影(反乱)の持ち主です。

糸島市波多江の産宮神社の社説では、主祭神は奈留多姫で、夫の「鵜草葺不合命」と鵜草葺不合命の妃の「鴨玉依姫」は脇神となっています。
しかし、社殿の造りは、鵜草葺不合命が主祭神で、妃の奈留多姫と鴨玉依姫は相殿となっています。


産宮神社 福岡県糸島市波多江駅南一丁目13-1
     (旧)福岡県前原市大字池田706

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          十三菊紋です、奈留多姫の紋章ではありません

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産宮神社(さんのみやじんじゃ)
御祭神
 奈留多姫命
 玉依姫命
 彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊
略縁起
 御祭神奈留多姫命は御懐妊に当り祖神をお祀りし「月満ちて生まれん子端正なれば永く以って萬世産婦の守護神とならん」と仰せられて無事皇子を安産された由。以降産宮と称え安産守護の神様として広く崇敬をあつめて来ました。
又神功皇后三韓遠征に際し当宮に産期の延びん事を祈られ、御帰朝後皇子を安産せられた由、その奉賽の為百手的射の神事を奉納され、この故事にならって二月二十五日には的射の神事が修行されている。
社前に梅樹あり「子安梅」と云う此の神木は神功皇后が韓土より持帰り初めて此の地に植えられたものと云う。


福岡県神社誌 産宮神社
住所 糸島郡前原町大字池田字宮ノ前
祭神 彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊、奈留多姫命、玉依姫命
由緒 社地は字井多に有り此所を本村と云ふ、人詣でで安産を祈る、依て神号を産宮大明神と云ふ。 社説に云ふ、神功皇后三韓に赴かせ給ふ時安産を祈らせ給ひ、帰朝の後皇子降誕ませしかば報賽に百手の的射修行し給ひしと云ふ。其旧例とて今に2月25日祠官村民等弓矢を取て儀式をなす。 社前に梅樹あり子安の梅と云ふ、社説に此の神木は后宮の韓土より持帰り給ひて初めて此の地に植え給ふと云ふ。尚古説に鎮懐石の片石は此社の神宝なる由を伝ふ。
明治五年十一月三日村社に定めらる。
氏子区域及戸数 池田区一円 約百戸
境内神社 熊野神社、宮地嶽神社、天神社、庚申社


神社配布パンフ
安産育児の神様 産宮神社
産宮神社略記
御祭神
 正殿 奈留多姫命
 相殿 彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊
 相殿 玉依姫命
由緒
御祭神奈留多姫命は御懐妊に当たり大いに胎教を重んじられ、母玉依姫命・おば豊玉姫の産育の瑞祥あるを尊重され、両神の前に「月満ちて生まれん子端正なれば永く以て万世産婦の守護神とならん」と誓われました。果たしてお産に臨んで心忘れたように何の苦しみもなく皇子神渟名川耳命(第二代綏靖天皇)を安産されました。以後「産宮」と称え安産守護の神様として広く崇敬をあつめてきました。
安産の御神徳
相殿にお祭り申し上げてる鸕鷀草葺不合尊は天つ神の御子彦火々出見尊と海つ神の御女豊玉姫との間にお生まれになられた神様で、お産の為に建てられる産屋の屋根がまだ葺き終わらぬ内に安らかにお生まれになったという神様で、安産の神様として崇敬されています。


社説によれば、「奈留多姫は懐妊に当たり、大いに胎教を重んじ、玉依姫命、豊玉姫命、両神の前にて、「月満ちて生まれん子は端正なれば永く以て万世産婦の守護神ならん」と誓いて、出産に臨み、苦もなく皇子、神渟名河耳命(第二代、綏靖天皇)を安産し、以後、「産宮」と称えて安産守護の神と祀る、とあります。
また、鸕鷀草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと ここでは「鵜草葺不合命」と表記します)は天つ神の御子・彦火々出見尊と海つ神の御女・豊玉姫との間にお生まれになられた神様で、お産の為に建てられる産屋の屋根がまだ葺き終わらぬ内にお生まれになったという神様で、安産の神様として崇敬されています、とあります。

神渟名河耳命(かみぬなかわみみのみこと 綏靖天皇 すいぜい)は、神武天皇と奈留多姫の間の御子と社説は言われる。
本当は、奈留多姫は神武天皇の妃ではありません。勿論、神渟名河耳命の母でもありません。随分と持ち上げようです。
鵜草葺不合命は、社説のように、彦火々出見尊と豊玉姫との間の御子です。鵜の羽と茅の産屋が作り合わせぬうちに出産されたので、「鵜草葺不合 うがやふきあえず」と申します。

豊玉姫と(鴨)玉依姫は豊玉彦(海神・水天龍王)の姫君です。
豊玉姫(とよたまひめ)
豊玉姫は彦火々出見命(饒速日)の妃で、その子は鵜草葺不合命であり、乙宮の祭神、竜宮神・乙姫神・青龍神でもあります。後に大国主の妃になられ、別名「田心姫」とも言い、福岡県・宗像大社の祭神の一柱となられ、海北の「道主貴みちぬしむち」と呼ばれます。
(鴨)玉依姫(かもたまよりひめ)
鴨玉依姫は鵜草葺不合命の妃であり、間の御子が安曇磯良(あずみいそら)です。後に別れられ、日吉神社の祭神「大山咋神」の妃となられ、(贈)崇神天皇の母となられます。宝満宮の祭神です。
豊姫(ゆたひめ)
鵜草葺不合命と奈留多姫(なるたひめ)の間の姫君が豊姫です。クマソタケル(後の川上タケル)の妹で、安曇磯良の妃となられ、後に佐賀県・川上神社(與止日女神社 よどひめ)の川上大明神になられます。また、豊姫は、開化天皇(高良玉垂命)の配偶者であり、神功皇后の妹として重要な地位に就かれます。
奈留多姫は天忍穂耳命の御子・天忍日命と雨宮姫との間の姫君です。


開化天皇(高良玉垂命)と鵜草葺不合命の関係
開化天皇が神功皇后と会見のため太宰府の四王子山にお立ちになったら四方に光が散ったという。その時の状況が神紋に描かれています。門光・木瓜の原始的な紋ですが、現在では、門光紋を花菱紋に変化させ、この門光紋が開化天皇の神紋となっています。

高良玉垂宮神秘書311条
311条 高良の御紋・木瓜(もっこう)のこと。
神功皇后が筑前国四王寺の嶺において大鈴を榊の枝に掛け七日間、異国退治を祈られた時、東の空に白雲が現れ、四方に開け、四方に光を放ち、四王寺の嶺に降られた。
四方に開けた白雲は四天王なり。紋の中に四本の鉾を抱えているのは四天王の鉾なり。これをそのままとって門光(もんこう)と名付けたり。
異国追伐の時の高良の御紋はこれなり。四方に光を放っている故、門の光と書く。
高良(大菩薩)、四天王に従して天降られた所を四王寺が嶺と名付けたり。


この四王子山伝説の開化天皇。その時は、開化天皇とは申しません。住吉様としてお立ちになって、先輩住吉様と交替をされます。先輩住吉様が鵜草葺不合命のことです。そして交替なさって新しく住吉神となられたのが開化天皇です。

高良玉垂宮神秘書309条
住吉の御紋に桐のとうを使われることは、鵜戸の岩屋で鵜草葺不合命を生みになられる時、御産屋に桐の葉を敷かれたことによる。産屋の傍の板も桐の木である。その桐の木、桐の葉を採った所を桐嶋と名付けたり。これにより、異国征伐の時も桐のとうを御紋として攻められる。住吉と申すは日子波瀲建(ヒコナギサタケ)鵜草葺不合命の御ことなり。


開化天皇となる前の名前は稚倭根子彦(ワカヤマトネコヒコ)ですが、太宰府四王子山であるものを渡され、正式の天皇、開化天皇となられました。そのあと開化天皇は高良大社に移られて、神武天皇を除いて、最初の人皇の天皇と成られたのが開化天皇です。
四王子山に於いて、開化天皇に三種の神器と五七桐紋を返上お渡ししたのが、鵜草葺不合命です。

これほどに鵜草葺不合命は格が高いのです。
産宮神社の主祭神は鵜草葺不合命でしょう。妃の奈留多姫と鴨玉依姫は相殿と見ています。
社殿の造りは、鵜草葺不合命が主祭神であることを示しています。
本殿の屋根の千木は外削ぎの男千木です。鰹木は五本で、主祭神は男神です。


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       鰹木は五本                外削ぎの男千木

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      境内社・宮地嶽神社 開化天皇と鵜草葺不合命との関係を示す


高祖神社祭神・彦火々出見命の八葉の鏡
糸島の高祖神社は彦火々出見命と高礒比咩(豊玉姫)の夫婦神を祀ります。
彦火々出見命と豊玉姫との御子が鵜草葺不合命です。
高礒(たかぎ)比咩とは、高木大神の姫・万幡豊秋津姫と大幡主の子・豊玉彦との姫です。
拝殿の前には彦火々出見命の「八葉の鏡」の社号標石碑があります。

高祖神社 福岡県糸島市高祖1578

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同様に産宮神社の社頭にも「八葉の鏡」の社号標があります。
彦火々出見命と豊玉姫と鵜草葺不合命の関係を示しています。
境内社として庚申社があり、彦火々出見命が祀られ、鵜草葺不合命の関係を示しています。

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        産宮神社                 高祖神社 

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    大型内行花文鏡(内行花文八葉鏡)  天照大神のご神体と想定される
    天孫降臨の神勅(宝鏡奉斎の神勅)
    吾が児、此の宝鏡を視まさむこと、当に吾を視るがごとくすべし。
    与に床を同くし殿を共にして、斎鏡をすべし。
    (我が子よ、この宝鏡を見るときは、まさに私を見るようになさい。
    宝鏡はあなたと床や殿を同じにして、お祀りする神聖な鏡としなさい。)

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境内社     熊野神社         天神社  庚申社三社

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       鵜草葺不合命と奈留多姫がクマソであることを示す神額

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               梅紋が社紋となっています

糸島郡誌(部分抜粋)
産宮神社 糸島郡波多江村
大字池田字宮の前にあり。祭神三座、彦瀲波武鵜草葺不合命、奈留多姫命、玉依姫命
池田及川面久保田楠等の産土神なり。
聖武天皇天平年中、僧行基に詔し、当社にて庶民の安産を祈らしめらる。
社前に梅一株あり孕婦其の枝を挟めば産安しといへり
故に遠近より詣来り安産を祈るもの常に多し。

糸島郡誌では鵜草葺不合命が第一神となっています。
社前に梅一株(子安梅)があり、孕婦(はらめ)がその枝を挿せば産安になるというのが梅紋の由来のようです。

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        池田の氏子さん(三嶋、波多江、藤井さんが多いようです)

                奈留多姫系図(2)

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                奈留多姫系図(3)

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