「降って来ちゃいましたね」
そうですね。
「嫌いじゃないですよ」
(俺のこと? なわけないか)
俺も雨の日に部屋や車の中から、外を見るの嫌いじゃないです。
雨が酷ければ酷いほど、
ざまーみろって。
「あははは」
「あたしも台風とかわくわくしちゃう」
あー、わかります。
「性格悪いですね」
「あたし達」
雨の千波。
悪くない。
顔見知りの女の人と世間話。
「私、体だけの関係の人が居たんです」
(いっ?)
あの・・・
何気にすごいこと言ってますよ。
「え」
「そうですか?」
他人様が他人様と『どういう関係』だろうが好きにすればいい。
俺が何かを言うことじゃない。
俺にはそういう感覚が無いし、
そういう関係の人が欲しいと思ったことが、今までも今もこの先も無い。だけだ。
が、
何で唐突にしかも俺にそんな話?
美人の部類に入るだろう中年の女の人にそんな話をされて、
俺はどんなリアクションを期待されてるんだろ?
へ?
えっと・・
ここは当たり障り無く無難な受け答えってことで。
んでも笑うとこじゃないよな。
やってしまったこと、過ぎてしまったことはどうにもならないから。
それはいいんじゃないですか。
「その人、あたしの声が好きだって」
ああ、何かそういう嗜好は解ります。
「でも体だけが目当てだって判ったから・・」
・・・・・。
「旦那に話す必要も無いですよね」
(えっ。ひょっとしてバレたっぽいの?)
そう思います。
変えることの出来ない過去を聞かせるのは可哀想だし、つらい想いをさせるだけです。
「そうですよね」
え。
だからさ。
この会話の主題は何よ?
さーっぱり見えねいよ。
ふーむー
何のカミングアウト?
それとも逆に機嫌がいいの?
ちょっと話してみたくなっただけ?
「どうしてるかなぁ」
「懐かしく思い出したりするんです」
そうですか。(こいつ反省してねーな)
窓の外、落ちる雨が小さな飛沫を上げる。
バイパスを走る車の音がくぐもって聞こえる。
雨の千波。
悪くない。
いーっや悪ぃよ。
一体、何の話だったんだ?
